計画に当たって
以前から興味があった伊藤新道と船窪(ふなくぼ)サーキット。伊藤新道は昨年復活した湯俣川(ゆまたがわ)の沢歩きを含むコースで、船窪サーキットは七倉(ななくら)を起点とし、船窪小屋から不動岳や南沢岳を回って烏帽子小屋(えぼしこや)からブナ立てを下る、あるいはその逆ルートで回るコースだ。
この二つをくっつけてできないかと9月上旬に計画していたが、迷走台風10号による湯俣川の水量への影響が読めずドタキャンした(3000円x3小屋=9000円のキャンセル料は痛かった)
今シーズンはもうダメかと諦めかけていたら、突然天気予報が好転したので、出発前日に山小屋を再手配した。伊藤新道で三俣(みつまた)山荘へ登り、裏銀座コースを北上して船窪サーキットに入るオリジナルのコース取りは、小屋の営業日程の関係で修正を余儀なくされ、扇沢から入って伊藤新道で七倉へ抜ける逆ルートで計画した
歩行ルートと標高グラフ
山行概要
9月24日(火):午前晴れ、午後曇り
扇沢から針ノ木小屋経由で蓮華岳へ登り、北葛岳、七倉岳を越えて船窪小屋へ
9月25日(水):朝曇りのち晴れ
船窪小屋から船窪サーキットで烏帽子岳に向かい野口五郎小屋へ
9月26日(木):晴れ
野口五郎岳から水晶岳、鷲羽岳を経て三俣山荘へ
9月27日(金):薄曇り
三俣山荘から伊藤新道で湯俣川へ下り、沢歩きを経て高瀬ダム経由で七倉に下山
2D歩行ルート図と標高グラフ
最高点の標高: 2989 m
最低点の標高: 1284 m
累積標高(上り): 5437 m
累積標高(下り): -5588 m
3D歩行ルート動画
歩行ログをもとに、Google Earth Proで以下のごとく3D歩行ルートの動画を作成した。カメラ高度は9000m、カメラ角度は30度、速度は1分程度の再生時間になるよう調整している。なお、右下の3点リーダーからPlayback speedを変更できるので、好みで調整されたし。
山行の詳細
1日目:扇沢から蓮華岳経由で船窪小屋へ
扇沢から針ノ木(はりのき)小屋へ向けて登り始める。まずは扇沢駅に向かって左手にある道路から登山道に入る。二度目に舗装道路に出たら、クロスして登山道に入らず道路を少し歩く。道路左手側にある写真右側の道へ入る。作業道を使って大沢小屋までショートカット。当ブログのタイトル画像を提供して下さったJimny-Hikerさんに教えてもらった。
熊に注意しながら歩きやすい道を進む。要所にピンクテープあり。砂防ダムには梯子あり。
沢には橋と梯子があり容易に通過できる。
大沢小屋の10mほど手前で登山道に合流。大幅に短縮できるわけではないが、歩きやすい道だった。歩く人が少ないので、若干蜘蛛の巣が多いのが玉に瑕。
ガスガスの中を登る。空気はヒンヤリしていたが、湿度があって汗をかく。
岩場。登りは比較的問題ないが、岩が濡れているときの下りは要注意。
ガスったり取れたりを繰り返す。ガスが取れると先が見えてテンションが上がったり、まだあんなに先かと悲観したり(笑)
月に向かって岩場を登る。数か所現れる岩場は、写真で見るほど手ごわくない。
40年前は針ノ木雪渓が万年雪のようにあったのだが・・。今は温暖化でわずかな残骸だけだ。
振り返るとガスを抜けたようだ。針ノ木サーキットと呼ばれる周回コースの稜線が見え始めた。
針ノ木小屋直下の最後の急登のジグザグ。すでに足が攣りそう。この手前に水場があるはずなのだが、数年ぶりに通過したらなかった!? 斜面が大きく崩落していたが、水場が消失したということか。この最後の水場で補給することを当てにしていたのだが・・。
針ノ木小屋に到着。小屋はもう営業終了していた。迂闊だった。小屋で水を購入することもできない。
これから向かう蓮華岳(れんげだけ)より写真左の稜線で北葛岳(きたくずだけ)を通って船窪小屋へと進む。明日は中央手前の稜線、通称「船窪サーキット」と呼ばれる尾根を越えていく。写真右の最奥に3日目に寄っていく双耳峰の水晶岳が小さく見える。それにしても遠いな・・。アップダウンも何度もあるし・・。
蓮華岳を目指してさらに登る。振り返れば、下に針ノ木小屋、上部に針ノ木岳の稜線。
蓮華岳山頂。高山市からのシニア登山者に撮ってもらった。私も二年ほど高山に住んでいたので、懐かしかった。扇沢から蓮華ピストンとのこと。私は北葛岳方面へ。この方からお茶の280mlペットボトルをいただいた。このあと、このお茶に救われることに。
北葛乗越へ下る岩場、赤白の丸印を下る。岩場の上り下りにはさほどの抵抗はないが、ここの岩の上には砂礫のつぶがあって滑りやすいので気を使った。
次は鎖の下り。すっかりガスに包まれた。涼しくていいけど、滑りやすい悪路に気が滅入りそうだった。
北葛乗越(きたくずのっこし)まで下ってから急登を登り返して北葛岳に到着。失速してCTから遅れ始める。
北葛岳の山頂標のすぐ横にライチョウ二羽。
穴を掘って(砂浴び?)休んでいた。お腹周りは冬毛の白い羽に変わり始めているが、背中や頭部は保護色で視認しずらい。生き残る工夫なのだから、見分けずらいのは当たり前なのだが。
七倉乗越まで下って七倉岳へ向かう途中。左のロープを掴んでこのパイプの上を歩く。バランステストか(笑)
七倉岳も急登で、ハイマツやシャクナゲの枝をつかんで登った。喉が渇き、自分の水を完全消費。もらったお茶に救われた。
やっとこさ七倉岳。予定より1時間遅れて4時頃に到着。ここから小屋までは10分の下り。やれやれ。ビールはもうすぐだ。小屋に到着すると私を含めて4人だった。女性のソロ二人とテン泊をやめて小屋泊に変更した若者一人。
この若いお兄さんがすごかった。七倉を深夜2時過ぎに出発して高瀬ダムから湯俣まで進み、竹村新道で野口五郎岳へ登り、裏銀座を北上して烏帽子小屋まで稜線を歩いたとのこと。そこからさらに船窪サーキットのアップダウンを繰り返して船窪小屋までやってきたのだ。しかもテン泊装備を担いで。
船窪サーキットは、高瀬ダムからブナ立て尾根で烏帽子小屋へダイレクトに登るのだが、最近の大雨で取付きの丸木橋が流され(今シーズン二度目)、竹村新道から大回りせざるをえなかったのは分かる。でもふつうは野口五郎小屋か烏帽子小屋で宿泊するところを1日で船窪小屋までやってきたわけで、2日分の行程を1日で歩いてきたのだから、開いた口が塞がらない。
翌日は私が歩いてきた蓮華岳までをピストンして、そのまま船窪小屋から七倉へ下り、拡大版サーキットを完結させるとのこと。私が翌朝5時に小屋を出るときにはまだ爆睡していたが、蓮華までのピストンなどあっという間に終えてしまえるのだろう。
二日目:船窪サーキットから裏銀座コースを歩いて野口五郎小屋へ
ランプの小屋の船窪小屋は心優しいご主人が切り盛りするアットホームな小屋だった。到着時の明るいときに撮り忘れたので、出立時に撮影。お世話になりました。
1時間ほどヘッドランプで歩くと明るくなった。高瀬ダムには雲海が広がっていた。奥には槍ヶ岳から奥穂高岳、さらに左に前穂高岳へ続く吊尾根の稜線が見えていた。
船窪のテン場を越えて船窪岳へ進むと、一つ目のやせ尾根。両側は崩落しているが、戸隠山(とがくしやま)の蟻の塔渡り(ありのとわたり)に比べれば恐怖感はなく、二足歩行で通過できた。
船窪岳を越えて進むと二つ目のやせ尾根。ここも二足歩行で通過。この尾根は早晩崩れて通行できなくなってしまうのではないだろうか・・
船窪第2ピークで船窪小屋の弁当を朝食として食べていたら、山頂標が熊にやられているのに気付いた。そそくさと食べ終え出立した(笑)おっかねぇー
2341mピークで左に立山連山と右奥に剱岳が見えた。
不動岳への登りの途中で針ノ木岳(左)と蓮華岳(右)を眺める。中央手前のピークは、山頂標がクマにやられていた船窪第2ピークだと思う。
不動岳山頂へかなり登り上げたところで、蓮華岳(中央やや左奥)から歩いてきた稜線を振り返る。
不動岳まであとわずかの登り。黒部湖と立山連峰を望む。絶景だな・・。
不動岳山頂。この日もアップダウンの繰り返しで、年寄りは脚力を奪われどんどん失速していった。
いよいよ南沢岳の崩落ゾーンへ。南沢乗越までの下りとその後の登り返しが辛そう。しかも一癖も二癖もありそうな尾根だ。
別世界のような崩落地帯へ突入していく。
一つ目のデンジャラスゾーン。上部は灌木の枝をつかんで登ったが、手前はいやらしかった。今シーズンにA学の女子学生が無くなったのは、このゾーンだろうか?ご冥福をお祈りする。
ここは3つ目のデンジャラスゾーンだったか。一つ目と二つ目に比べると多少ましだった。足元と前だけに集中して、左の崖下は見ないようにした(笑)。いずれにしてもテン泊装備の重いザックでは通過したくないな。
南沢岳山頂。危険地帯通過を終えてほっとするも、大幅に予定超過。写真中央奥やや左の三ッ岳のピークを越えていく必要がある。どう考えても5時までには野口五郎小屋に到着できそうにない。
水も残り少ないので、前日の教訓を生かして烏帽子岳(えぼしだけ)の山頂直下にある綺麗そうな池塘(ちとう)の水を汲んだ。濾過器を使用してペットボトル一本分を工面した。
前烏帽子岳辺りから振り返る。右が危険地帯を通過してきた南沢岳。左がスルーした烏帽子岳。この後、営業終了した烏帽子小屋に3時すこし前に到着。何とテン泊受付のため売店がオープンしていた。ビールを飲んでエネチャージ。ペットの水も2本調達。濾過して作った水は捨てた。
蓮華岳から烏帽子小屋まで歩いたことにより後立山連峰(うしろたてやまれんぽう)の稜線と裏銀座コースの稜線がつながった。
烏帽子小屋のお姉さんにダメ元で「玄関の板の間でいいから素泊りさせてもらえないか」と頼んだら、「予約されている野口五郎小屋に到着が遅れる電話を入れて先に進んで下さい」と塩対応(笑)。ドコモの電波が入るポイントを教えてくれた。野口五郎小屋に電話して、到着が6時から7時くらいの間になることを連絡。
小屋のスタッフは「時間を気にせず、ゆっくり無理せず歩いてきてください」との優しい言葉。ありがたくマイペースで三ッ岳へ登る稜線を進んできて、歩いてきた稜線を振り返る。右奥が蓮華岳で、その前の稜線を、右から左へと歩いてこちらへ進んできた。
夕日と雲海。野口五郎小屋まであと20分ほど。ヘッデンを点けるギリギリ手前の6時過ぎに小屋到着。夕食のカレーを食べさせてくれた上に営業最終日でビール1本サービス(涙)
南アルプスのN鳥小屋のオヤジさんなら、正座させられて3時間はみっちり説教されただろうな(笑)。説教されても仕方ない。こんなことは今回が初めてとはいえ、到着が5時を過ぎるのは言語道断だ。小屋のスタッフにも同部屋のお二人にもご迷惑をかけてしまった。この場をお借りして改めてお詫び申し上げたい。
三日目:裏銀座コースを野口五郎、水晶、鷲羽と繋いで三俣山荘へ
翌朝の御来光@野口五郎小屋。本来は烏帽子小屋に宿泊するところを、営業終了のため野口五郎小屋まで歩いてきた。今日は三俣(みつまた)山荘で宿泊するのだが、お昼過ぎには小屋に到着してしまう。早く到着すれば、その分アルコールをたくさん飲むだけなので、裏銀座コースの眺望を楽しみながら、ゆっくりと歩いていく。
小屋前から富士山も見えた。その左方向には八ヶ岳連峰もきれいに見えた。
野口五郎岳へ登る途中で小屋を見下ろす。お世話になりました。
右奥には後立山連峰の旭岳、白馬岳、杓子岳などが見えている。今日は朝からすごい秋晴れの天気だ。
野口五郎岳の山頂標と左奥には槍ヶ岳と北鎌尾根。穂高連峰は雲の中。
水晶岳(中央)の稜線に影野口五郎岳。
水晶岳の左方向にはワリモと鷲羽。あそこを越えていく。何度か通過した稜線だ。
振り返って左奥の野口五郎岳から手前の東沢乗越方面へと歩いてきた稜線を眺める。
左下が東沢乗越、右上が水晶小屋。ここからさらに下って登り返す。
東沢乗越まで下ってきた。奥の左側に立山、右奥には白馬三山。
水晶小屋までの登り返し。途中で岩稜帯を通過していく。
左の最奥には後立山連峰の山並み、旭岳、白馬岳(左)から双耳峰の鹿島槍(中央やや右)。その前には針ノ木岳(中央)と蓮華岳(右)。針ノ木岳の前には、南沢岳(中央)と烏帽子岳(右)。こんな日はどこまでも歩いて行けそうな気になる。
水晶小屋に到着。竹村新道分岐と水晶小屋がつながり、裏銀座のミッシングリンクが埋まった。
今日は時間たっぷりなので水晶岳(黒岳)に足を延ばす。水晶小屋に荷物をデポさせてもらった。
稜線の途中から黒部五郎岳が抜群の眺め。
水晶岳の山頂直下。名前の由来通り水晶の岩石層。国立公園なので採取禁止。
水晶岳山頂から三俣蓮華、双六方面の山並み。その奥に笠ヶ岳。
水晶岳山頂から写真左端に水晶小屋、奥には穂高もくっきりと見えるようになった。
水晶小屋へ戻り、ワリモ岳へ下る途中で振り返る。左奥は薬師岳の嫋やかな稜線。右が水晶岳から小屋への稜線。
ワリモ北分岐から岩苔乗越(写真中央下)へと寄り道。左奥は祖父岳で、あの奥に秘境と呼ばれる雲ノ平がある。
岩苔乗越から少し下って黒部源流の水場へ。
おいしい黒部源流の水を汲んでいく。水量は細かった。水場の看板から沢を1-2mほど下ると汲みやすい。
水場からそのまま黒部源流の碑へと下って三俣山荘へ登る方が早いが、鷲羽岳を通過したいのでワリモ北分岐まで登り返した。ワリモ岳山頂直下をトラバース。
ワリモ岳から一旦下って鷲羽岳(わしばだけ)へ登り返す。
今回の山行の最後の登り。やれやれ、というのが正直なところ。でもここまで来ると楽しかった。
鷲羽岳に到達。山頂標の右側、左が大天井岳、右が常念岳。
眼下に鷲羽池、奥に硫黄尾根、最奥が北鎌尾根。槍穂は雲に覆われた。
三俣山荘を見下ろす。鷲羽岳からの劇下り。1時過ぎに小屋に到着して、小屋でビールとオムライスの昼食。午後は翌日の伊藤新道に備えてのんびりした。
感想はPart-②に記載。
関連情報
アクセス
<扇沢の駐車場>
安曇野ICから扇沢へのルート:
http://www.kurobe-dam.com/access/guide_car.html
扇沢駐車場:
市営無料駐車場:170台/第1+60台/第2
有料駐車場350台:
第1/2駐車場(上段)1000円/12時間毎
第3/4駐車場(下段)1000円/24時間毎
https://tozanguchi-p.com/post-442/
市営第一無料駐車場は火曜の朝の5時前到着で7-8割埋まっていた
コンビニ
マイカーの場合は、安曇野ICを下りてから扇沢までにメジャーなコンビニが3軒ある。セブン1軒、ファミマ2軒。
コース状況
扇沢から蓮華岳:
大門小屋まで今回初めて作業道を使ってみた。しっかり整備されており快適だった。熊と蜘蛛の巣に要注意
蓮華岳から船窪小屋:
北葛乗越への下りがザレザレで滑りやすい。岩場も砕けた砂礫で滑りやすいの要注意。乗越から北葛岳へは急登。左右のハイマツやシャクナゲなどを掴みながら登った。七倉岳への登り返しも同様
船窪小屋から烏帽子分岐:
船窪サーキットの核心部。船窪岳前後の崩落した尾根の通過は短いが要注意。不動岳前後にも危険個所は少なからずあるので、緊張を途切らせないように。最大の難所は南沢岳の北東(不動岳方向)の崩落部分。私は掴まる灌木、ハイマツ、ササなどがあれば、枝や茎を掴んで通過した
登山道は、前日の北葛岳前後のように細かい砂礫で滑るようなことはなく、歩きやすい道だった。ただ、シャクナゲなどの低木の枝が若干うるさい上に、夜露で衣服が濡れる。私と逆回りできた若者に聞いていたので、レインパンツを履いた(南沢岳山頂まで)。
烏帽子分岐から三俣山荘:
メジャーな裏銀座のコースなので、道迷いや危険個所はほとんどない
歩行タイム
<1日目> 山行 9:16、休憩 1:25、合計 10:41
扇沢駅 5:35 → 6:24 大沢小屋 → 9:22 針ノ木小屋 9:46 → 10:51 蓮華岳 11:21 → 12:41 北葛乗越 12:46 → 14:00 北葛岳 → 14:41 七倉乗越 14:46 → 15:50 七倉岳 16:05 → 16:15 船窪小屋
<2日目> 山行 12:17、休憩 0:56、合計 13:13
船窪小屋 4:57 → 5:18 船窪テン場 → 5:53 船窪乗越 5:56 → 6:11 船窪岳 6:33 → 8:01 船窪第2ピーク 8:17 → 11:12 不動岳 → 13:08 南沢岳 13:11 → 14:49 烏帽子小屋 14:57 → 18:10 野口五郎小屋
<3日目> 山行 6:25、休憩 1:01、合計 7:26
野口五郎小屋 5:57 → 6:11 野口五郎岳 6:18 → 8:02 東沢乗越 8:09 → 9:02 水晶小屋 9:10 → 9:33 水晶岳 9:39 → 10:08 水晶小屋 10:28 → 11:04 岩苔乗越 11:07 → 11:11 水場 11:13 → 11:17 岩苔乗越 11:24 → 11:35 ワリモ北分岐 → 11:52 ワリモ岳 →12:29 鷲羽岳 12:35 → 13:20 三俣山荘
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