2022.09.13 17:10
日本百名山の中でも難易度が高いといわれる幌尻岳(ぽろしりだけ)。北海道の日高山脈にある。登山として技術的に難しいわけではない。アクセスが大変なのだ。一般登山道としてのアクセス方法は三つ:
①平取ルート
とよぬか山荘の駐車場まで車で行き、そこからシャトルバスで登山口まで林道を進む。その後、水量によっては股下まで浸かる沢の渡渉を繰り返して幌尻山荘へ行き、そこで前泊する。二日目に幌尻岳山頂をピストンして小屋に戻り、沢を下ってシャトルバスでとよぬか山荘まで戻る。このルートの難しい点は、渡渉ポイントの見極めとシャトルバスや幌尻山荘の予約を確保すること。幌尻山荘へは寝具や食料、コンロなどを担ぎ上げる必要がある
②新冠ルート(別名、田中陽希ルート)
インドナップ山荘まで車で行き、そこから北海道電力が管理する林道を20キロ以上歩いて新冠ポロシリ山荘まで行き前泊する。翌日に幌尻岳をピストンして20キロ以上の林道を歩いてインドナップ山荘まで戻る。このルートの難しい点は、長い林道歩きと、山岳会が管理する新冠ポロシリ山荘の予約の確保。こちらも寝具や食料、コンロなどを担ぎ上げる必要がある
③チロロルート
チロロ林道の駐車場からスタートして、糠平岳(ぬかびらだけ)、北戸蔦別岳(きたとったべつだけ)、戸蔦別岳(とったべつだけ)を越えて幌尻岳をピストンする。このルートの難しい点は、往復約24キロと長いこと、いくつものピークを越えていくため稜線のアップダウンが多く体力を消耗すること。ただし、早めのペースで歩けば、唯一日帰り登山が可能なルートである
以前からチロロルートを使って軽装で機動力を上げて日帰り登山することを計画していた。ところが、8月15日ころの大雨により幌尻岳のあちらこちらの林道が損壊してしまった。①は9月10日に林道が復旧し、シャトルバスの運行が再開されることに、②は復旧の目途が立たず、今シーズンは山小屋も閉鎖されることになった
私が実行するタイミングでは、③のチロロルートのみがアクセス可能だったのだが、こちらの林道もダメージを受け、本来の駐車場の8.5キロほど手前のゲートが閉鎖されてしまった。徒歩での通行は可能ながら、往復約17キロの林道歩きがプラスされることになり、余程の健脚でない限り、日帰りは絶望的となった
やむなく、林道終点の北海道電力取水口でテン泊することにして、アタックザックで身軽にして幌尻岳をピストンすることにした
冒頭の写真は糠平岳からの眺め。左の三角が戸蔦別岳で、右奥が折り返し点の幌尻岳。気持ちの良い稜線歩きだ、とこの時は思っていた・・・
歩行ルート図と標高グラフ
最高点の標高: 2042 m
最低点の標高: 434 m
累積標高(上り): 2857 m
累積標高(下り): -2843 m
1日目の山行記録
まずは初日。今回も朝8時半発のピーチで成田を出発。新千歳でレンタカーをピックアップして11時頃に出発。直前に山行を決定し、手持ちの熊撃退スプレーを北海道へ送るなどの手配ができなかったため、千歳のホーマック住吉店で現地調達。到着二日前に電話確認したところ在庫2本だったが、当日は最後の1本だった(汗)。知床ほどではないけど、日高山脈もヒグマが多い
登山口へ車を走らせ、チロロ林道を進むと、チロロの巨石があった。比較対象のため、自分を入れるべきだったな
午後1時半にゲート到着。私の車を入れて2台のみ(下山時は14台だった)。準備をして午後2時出立
テン泊装備を担いで、林道を歩く。この林道は車で走りたかったな・・
でも歩きならではの景色をゆっくりと楽しめる。紅葉の頃はさぞかし綺麗だろうな
ゲートから約5.5キロ地点。最初の損壊ポイント。山からの流水を林道下の地中で通す太いパイプが剝き出しになっている。写真の左を一旦下りて向こう側へ登り返す
二つ目の大きな損壊部分。水無月橋を渡ってきて振り返ったところ。写真右側は人が問題なく通過できるくらいには残っている
約2時間歩いて、やっとこさ本来の登山口駐車場に着いた。右は簡易水洗トイレ
ここが本来の車止めゲート。横を抜けて先へ進む
さらに歩くこと約40分。林道終点の北海道電力取水口までやってきた
取水口でテントを張る。今夜は私一人。水は背後のチロロ川で汲める。きれいで冷たい水だが、北海道はキタキツネが媒介するエキノコックスという寄生虫の心配があるので濾過器を使用
ここまで約11.5キロを約2時間半で歩いてきた。十分なほど疲れた。軽量化のためアルコール持参を断念したが、すぐに眠りに落ちた
2日目の山行記録
翌朝、4時過ぎにヘッデンを点けて出発。渡渉を10回ほど繰り返すポイントに着くころには明るくなっていた。おかげで、渡渉はすべて難なくクリアできた(すべて岩の頭をまたいで通過)
標高約1400mにある湧水。ここまで風の通らない樹林帯の急登を上がってきて汗ぐっしょり。この水をがぶ飲みした。冷たくておいしい水だった。ここまでの消費分を補充して満タンにした。復路もここで補充してつなげるように調整しながら水を消費した
トッタの泉から1時間強、連続する2つの梯子まで上がってきた。稜線歩きになり展望が開け、風が心地よい。ここまでくれば、糠平岳まであと少し
冒頭の写真。糠平岳までの急登が辛かった。ここからは気持ちの良い稜線歩きに見える
幌尻岳とは反対方向の眺め。こちらの山並みはどこだろう?東大雪山系か?
まずは緩やかに登って写真中央の北戸蔦別岳を目指す
北戸蔦別岳に到達。ここで地元北海道のガイドさんに会い、この先のアドバイスをもらった。ここから大きく3回のアップダウンを繰り返して幌尻岳山頂を目指す。次は左の尖がり、戸蔦別岳へと向かう
戸蔦別岳山頂まで来た。「タ」の字がズレてるな。ここから大きく下って、幌尻の肩へと登り返す。簡単には到達させてくれない
戸蔦別岳から下ると稜線の左下に七つ沼カール。熊がよく目撃されるところ。この日は見かけなかった。ここも音楽ガンガン。それにしても暑い。下界は30度越えの真夏日で、稜線の上も日光に晒され、熱中症のような症状に陥った
ハイマツ漕ぎを越えて幌尻の肩へと登り返す。この登りはきつくて撃沈した
やっとこさ幌尻の肩まで登り上げた。ここから山頂までコースタイムで40分。ここで塩おにぎりを食すも、なかなか喉を通らない。熱中症の典型的な兆候
幌尻岳が徐々に近くなる。本来はビクトリーロードだが、復路のことがよぎり始める
山頂直下、ウラシマツツジかな。草紅葉がきれいだ。
折り返し点に到達。幌尻岳山頂(2,053m)。百名山98座目。やれやれ・・。20分程、一人の山頂を楽しんだ
写真中央を横に伸びる稜線が①の平取ルートの最後の稜線
こちらの手前の稜線が②の新冠ルート。この日の時点では両方とも入山できないので、誰も登ってこない
復路を急ごう。幌尻の肩からの下り。ちょうどお昼ごろ。いくつか小刻みにアップダウンを繰り返し、戸蔦別岳へ登り返す
戸蔦別岳の山頂。もうヘロヘロ。写真の左下から右上に対角線状に伸びる尾根を進む。まだまだアップダウンが続く
北戸蔦別岳への登り返し。あそこまで到達すれば、あとは大きな登り返しはない。プロテインバーを食べようとしたが、喉を通すのに苦労した。喉も胃もなかなか食べ物を受け付けない
戸蔦別岳から北戸蔦別岳への稜線では、しばらく強烈な獣臭が続いた。目視では見かけなくても、やはりクマがうろついているんだろうな・・
北戸蔦別岳山頂。糠平岳へと続く稜線。本日ここで幕営する人としばし会話。本来はこの人達のように、北戸蔦別岳の稜線でテン泊するのが一番良い楽しみ方なのだろうが、テン泊装備の重い荷物を背負ってここまで上がってしまうと、足がボロボロになって次に続く山行が怪しくなってしまう
アタックザックの軽装でこんなに疲れているのだから、今回は下の取水口でテン泊して正解だったと思う。下界は真夏日のように暑かったので、あの樹林帯の急登をテント担いで登ったら相当体力を消耗しただろう
北戸蔦別岳から黙々と一気にトッタの泉まで下り、水をがぶ飲みして補給。その後は湿って滑りやすい急斜面を急ぎつつも慎重に下って渡渉部分を通過してきた
往路では暗くて写真を撮れなかった沢沿いのヘツリ部分。ロープの片方の支点の木がグラグラで、ロープは使えない。岩を頼りに通過。見た目ほど危険ではない。ここを過ぎれば、幕営地まであと少し
午後6時前。明るいうちに戻ってこられた。左側のテント二つは、北戸蔦別岳でお会いしたガイドさんとその客のテント。このガイドさんは、年の三分の一をネパールでガイドツアーに費やし、それ以外は地元北海道を中心にガイドをされているとのこと
当日は日帰り山行の最後の登山者が取水口を通過するまで見届けていた。実のところ、私も撤収して下山しようとしたのだが、ガイドさんにもう一泊して、翌朝に林道歩きをするよう勧められ、素直に従った
おかげで、翌朝にガイドさんが釣ってきたオショロコマというイワナに似た魚をご馳走になった(朝になって熱中症の症状が和らぎ、食べ物が喉を通るようになった)。感謝!
3日目の山行記録
翌朝、テントを撤収して林道を下る。今日も凄く良い天気だ
轍が沢になっている部分。雨が降った後はどうなるんだろう。林道全体が沢と化すか?
本来の駐車場まで下りてきた。今は車が入らないのでテン泊好適地。横のチロロ川から水を汲めるしトイレもある
落葉広葉樹のトンネル。もう少ししたら紅葉ロードだな。さぞかし綺麗だろう
🐻の🐾。ガイドさんの言うとおりだ。下のゲートから数キロは、林道にもヒグマがうろついているようだ
やっとこさ駐車場。林道歩きが長かった
道の駅「樹海ロード日高」に戻ってきた。近くのひだか高原荘で日帰り温泉に入り、ここで名物のヤマベ天ざるそばを食す。ヤマベはこの辺りの小魚で(5センチくらい)、開いて天婦羅にしたもの。美味しかった
7月の終盤に大雪山系を縦走したときには、北海道らしい涼やかな稜線歩きを楽しんだが、今回は本土の夏山みたいな感じとなり、暑さに滅法弱い私にはきつかった
まぁ、ずっと天気が悪くて、やっと4~5日晴れになったのだから、贅沢は言えない。今シーズンはもうダメかと諦めかけていた北海道の百名山『北の国からシリーズ 第三弾』を可能にしてくれた山の神様に感謝感謝だ
なお、①と②のルート情報は以下を参照されたし
①平取ルート(9月10日からシャトルバスが再開されたとのこと)
②新冠ルート(田中陽希ルート)
また、本山行のコース概況やタイムなどの詳細については、以下の記録を参照されたし
山行記録: 幌尻岳(チロロ林道から) ☜ ヤマレコの記録