2021.10.01 08:27
29歳だった。独身最後の夏の縦走。日本三大雪渓の一つである針ノ木雪渓を上がり、針ノ木岳から白馬岳を目指して北上した。後立山(うしろたてやま)連峰、通称後立(ごたて)と呼ばれる尾根だ
針ノ木岳、爺ケ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳、唐松岳、白馬岳などの名峰が並ぶ。スキー場でいえば、青木湖スキー場、鹿島槍スキー場、八方尾根スキー場などが並ぶ山々の尾根を歩くコースだ
結果的には、白馬三山(白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳)に向かうすぐ手前で、白馬鑓温泉(やりおんせん)へ下って縦走を終えた。若い頃に山をやっていた親父の古いモノクロ写真に、鑓温泉に気持ち良さそうに浸かっている親父の写真があり、いつか自分も入ってみたいという想いがあった。ゴールの白馬岳を目の前にして鑓温泉への分岐の看板を見た途端、何の迷いもなく鑓温泉へと下っていた
本格的に山を再開して8年目。いつか同じコースを再訪したいと思っていた。今回は満を持して臨むつもりだったが、台風16号の接近もあり、途中の唐松岳をゴールとして3泊4日の計画を立てた
出発2日前に計画をフィックスして、1泊目の針ノ木小屋に予約の電話を入れると、何とその日が営業最終日とのことで、初っ端から再訪の夢は頓挫した。やむなく計画を2泊3日に縮小して計画を組み直すも、どうにも諦めきれない。あれこれ思案して、逆回りにしたら無理をすれば2泊3日でオリジナルの計画を歩けるのではないかと気づく
という訳で、年も顧みず、2泊3日で38kmのハードな縦走に出かけることに。八方尾根をゴンドラとリフト2本を乗り継いで八方池山荘に上がり、そこから標高差約800mを上がり唐松岳に登頂する。そして後立の尾根を五竜岳、鹿島槍ヶ岳、爺ケ岳、針ノ木岳と南下し、最後に蓮華岳で締めくくる
途中、五竜岳と鹿島槍ヶ岳の間には、一般登山道としては北アルプスの難所の一つ、八方キレットなどの岩場の通過がある。個人的には岩稜帯はさほど苦にならないので、技術的には問題ないのだが、体力的にできるかどうか・・。29歳の時より一日当たりの歩行距離が長いハードな計画だ。年寄りにありがちな、「今でもできるはず」という根拠の乏しい思い込みで出かけた
前置きが長くなったが、冒頭の写真は3日目の早朝3時に小屋を出て鳴沢岳の山頂直下でご来光を迎えた際に、稜線に朝日が当たり、モルゲンロートに耀いたところ。右手奥は手前がスバリ岳、奥が針ノ木岳で、写真右の痩せ尾根を歩いて進む。今回の後立縦走の最後の部分だ
まずは1日目の朝。東京駅6:16発の北陸新幹線で長野まで行き、そこから白馬行きの特急バスに乗り換え、途中の八方バスターミナルで下車。八方尾根スキー場のゴンドラ「アダム」とリフト2本「アルペン」、「グラート」を乗り継ぐアルペンラインで八方池山荘まで上がる。あいにくの曇り空。アダムは雲の中へと突入。最初のリフト「アルペン」はガスの中を進んだ
2本目のリフト「グラート」で雲を突き抜けた。これは期待できるかも。八方池山荘からの登山開始は予定通り10:30だった。登山としては遅いスタート
八方池まで登ってきた。う~ん、残念。池の向こうには白馬三山(白馬岳、杓子岳、白馬鑓ヶ岳)がドーンと見え、池には逆さ白馬三山が映るのだが・・・。登山開始が遅いので、小屋に急ぐ必要がある。ガスが晴れる一瞬を待つ時間的余裕はなく先へ進む
八方池山荘から700mくらい標高を登り上げると唐松岳がくっきりと姿を現した。これは山頂からの眺望が期待できそうだ
甘くはなかった。山頂に着くとガスに包まれてしまった。あと20分くらい早く登る脚力があったら間に合ったかも。眺望は潔く諦めて、今宵の宿の五竜山荘へ急ぐ
唐松岳直下の唐松岳頂上山荘(今年度はコロナ休業)前にデポしたザックを回収し、身支度して先へ進むとすぐ「牛首の鎖場」と呼ばれる岩場に突入
なかなかスリリングな岩場が続く。後立は岩稜帯が続く尾根なので、所々でこのような岩場が出てくる
2週間前に出かけた北アルプスの5泊6日の縦走で足がガクガク。1日目からヘロヘロになりながら小屋に到着。遅くとも16時着が小屋のルール。着いたのは16時ジャストだった。小屋の看板の左横のマークは武田菱。5月ごろの残雪期に麓から五竜岳を見ると、上部の雪渓がこのマークのように見えて、田植えの合図となる
小屋にチェックインして缶ビール2本を購入して外に出ると、ブロッケン現象を見ることができた。人生7回目の遭遇。私の背後に傾いた太陽があり、私の前のガスに私の影が映る現象。仏像の後光はこの現象に由来するのだろうか?
アップで。手足の長い宇宙人みたいだ(笑)。ブロッケンは尾根を歩いていると影のようにくっついてくる。手を振ればブロッケンも手を振ってくれる。1日目頑張ったご褒美かな
明日の朝、左側から中央へ延びる尾根を登って五竜岳に向かい、ご来光を拝む予定
2日目の朝。4時10分過ぎに小屋を出立。しばらくヘッドランプで進むと黎明の時間帯になった
富士山がきれいに見えた。下には雲海が広がっている
薄暗がりをボーっと進んでいてルートミス。山頂直下の浮石だらけの岩場を強引に攀じ登ったが、日の出前に山頂に着いた。左の背後は岩と雪の殿堂「剱岳」
上層の雲の下側に朝日が当たって素晴らしい朝焼けだ。刻々と色が変わっていく
合掌。ご来光を拝むことができ、幸先良いスタート
2日目の縦走のハイライト。下り口には上級者コースの注意看板があり、昨日通過してきた牛首の鎖場のような岩場をいくつも進む。右上の双耳峰の鹿島槍ヶ岳を越えていく
五竜岳からの下り。早速鎖場を通過
快調に飛ばして進んできた。左奥の五竜岳から下りてきた尾根を振り返る。足の調子は良くなってきた
キレット小屋が近づいてきた。いつ見ても絵になるロケーションの小屋だ。29歳の逆回りの時は、この小屋が2泊目だった。右上のピークが鹿島槍ヶ岳の北峰への稜線
キレット小屋の前のテラスからは剱岳の美しい姿が正面に見える
岩壁を回り込むように八方キレットを通過していく。手前から進み、左側のピークの右横腹を回り込んでいく
鹿島槍ヶ岳の北峰山頂まで登り返した。北峰から主峰の南峰を眺める
南峰山頂から歩いてきた尾根を振り返る。これで本日の中間地点ぐらいかな
鹿島槍ヶ岳の南峰からの下り。斜面の広葉樹が紅葉していた
爺ヶ岳に登り返すコルから信濃大町の街がきれいに見えた
爺ヶ岳は北峰、中峰、南峰の三兄弟。主峰はこの中峰。奥に見えるのが南峰。2日目の最後のピーク。山頂標の右側に今宵の宿の種池山荘が小さく見える
種池山荘近くまで下りてきた。ナナカマドが色づいていた
種池山荘と爺ケ岳南峰。到着は16時を回る予定だったが、何と15時過ぎに着いた。早く着いた分、アルコールの消費が増えた(笑)
3日目は最も距離が長いので、最終バスに間に合うよう3時に出立。1時間半ヘッデンで暗闇を歩き、岩小屋沢岳を通過。熊に用心しながら独り言をブツブツ言って進む。もちろん熊除けの鈴も鳴らして
すでに小屋仕舞いしている新越山荘を通過する辺りで空が明るくなり始めた。鳴沢岳へ向かう山頂直下で、本日も富士山が見えた
低層の雲は雲海となり、夜明けが高層の雲との境をなす
四阿山(あずまやま)から日が昇る。少し右には浅間山。雲海が素晴らしい
振り返って、奥が爺ケ岳、手前が岩小屋沢岳。明るくなってやっと景色を見ながら歩ける
冒頭のモルゲンロートに耀く尾根の写真。左下に針ノ木雪渓の残骸が見える。昔はもう少し雪渓の雪が残っていたのだが・・。雪渓の一番上に針ノ木小屋があり、その奥に槍ヶ岳が見えている
赤沢岳山頂。百高山の一つ
赤沢岳山頂から眼下に黒部湖
後立山連峰の縦走路を一望できるポイント。中央奥のやや左の唐松岳から右へ五竜、双耳峰の鹿島槍、一番右が爺ヶ岳、そこから左へ岩小屋沢岳、鳴沢岳、赤沢岳、さらに右手前へスバリ岳への尾根。私が立っているのはスバリ岳山頂直下
スバリ岳山頂。後立縦走は百高山を一網打尽。眼下に黒部湖
スバリ岳から黒部湖を挟んで対岸にある立山を望む。山の斜面にアルペンルートのロープウェイの黒部平駅と大観峰駅が見える。分かるかな?
針ノ木岳に到着。ここまで来ると、扇沢からの日帰り登山者がそれなりにいる。よくここまで歩いてきた。時間的にも大丈夫そうだ
針ノ木岳山頂から最後のピークの蓮華岳を眺める。さぁ、鞍部にある針ノ木小屋へ下りよう
針ノ木小屋に重いザックをデポして、ほぼ空身で蓮華岳へ登ってきた。今回の後立縦走のゴール。一体いくつのアップダウンを繰り返してきたんだろう。老体にムチ打ってよく頑張ったものだ。17時発の長野行き最終バスが気になるので、タッチ&ゴーで針ノ木小屋へ下山開始
下る途中で針ノ木岳(左)とスバリ岳(右)。奥は立山が雲に隠れている
針ノ木小屋で荷物を回収し、小屋前から扇沢に向けて下山。雲の中にダイブする感じ。雪渓は融けてほとんどないので、膝をいたわりつつ夏道の長い下りを歩く。雪渓があったら楽なのにな・・
濃いガスに突入し、印のペンキやピンクリボンを見失う。登山道は沢の上部を高巻きしていたのだが、気づかずに沢沿いをしばらく下ってしまった。急いでいても、元の地点まで引き返さないとダメだね。それでも最終一本前の15:40発の長野行きバスにギリ間に合った。あぁ~下りがきつかった
今回の歩行距離は、1日目が8.5㎞、2日目が12.5㎞、3日目は17.5㎞。日増しに距離が長くなる。2週間前の室堂から上高地への大縦走で、足はガクガク。1日目の唐松岳への登りがきつかった。どうなることかと思ったが、2日目、3日目と足が次第に動くようになって、無事に歩き通すことができた
それにしても針ノ木小屋の9月25日営業終了が誤算だった。迂闊にも小屋に確かめることもせず、9月末までの営業だと思い込んでいた。返す返す3泊4日のゆったりペースで35年ぶりの後立縦走を味わいたかった。二度と今回のような無理な計画はやるまい
今はただ、無事に歩き通して帰ってこられたことに感謝感謝である
なお、今回の縦走ルートの詳細については、以下のヤマレコの記録を参照されたい
山行記録: 35年ぶりの後立縦走。相変わらず気持ちのよい尾根だ ☜ ヤマレコの記録