2020.11.12 23:06
快適な営業小屋の弥山小屋に宿泊できたのはよかったが、夜は時折、風と雨の音が激しかった。弥山小屋にはテレビ大阪の撮影クルーも同宿していて、小屋締め前日にここに宿泊した客6人全員が同じ部屋に入った。撮影クルーは、ここにやってくる登山者や小屋締めする弥山小屋のご主人たちの様子を取材しにやってきていた。
何と私も取材を受け、到着日の夕方に弥山山頂で夕日を眺めながら「なぜ奥駈をやるのか」などインタビューを受けた。数週間後にテレビ大阪の夕方のニュース番組(首都圏で言えば、イットやNスタ、Jチャンネル、every.などと同じような番組)の特集コーナーで放映された
同室になった沖縄からのご夫婦も取材されていた。私と同年代と思われるご夫婦は、北海道を皮切りに車で日本列島を南下して旅する途中で、弥山に登ってこられた。どう考えても、こちらのご夫婦の方が面白そうなのに、私の尺の方が長くて2分もあったので驚いた
それはさておき、4日目の朝、まだ小雨が降り続いていた。この日は弥山小屋で停滞だなと半ば諦めていた。撮影クルーが撮れるはずのない日の出を求めて、まだ暗い外へと出ていった。戻ってくると、さほど雨はひどくないとのこと。ますますどうするか迷う。釈迦ヶ岳は奥駈道中盤の核心部。鎖場や細い尾根を通過する。そこに至るまでに滑りやすい崩落地の迂回もある
とりあえず朝食を食べに食堂へ。食事後、小屋の主人に、雨で登山道が濡れているときに釈迦ヶ岳の通過は大丈夫かどうかを相談。小屋の主人は、「鎖に掴まって登っていくだけだから問題ない」という。さらに、どういう確信なのか、雨はやんで晴れてくるから先に進んだらとのこと。SCWの雨雲予報サイトでは、終日雨予報なのだが、長年ここの天気を見てきているご主人には、別に感ずるものがあるのか・・
意を決して、予定通り先へ進むことにした。撮影クルーが、出発の様子を取らせてほしいというので、出発準備に取り掛かる。もう後には引けない。進むのみだ。カメラを意識して霧雨の中、日本300名山一筆書きに徒歩だけで挑んでいる田中陽希さんのように颯爽と小屋を発った(笑)
冒頭の写真は、中盤の核心部の釈迦ヶ岳山頂。4日目は終日真っ白な中を深仙小屋まで歩いた。翌日の5日目は天候が回復し、深仙小屋から行仙の宿へと計画通り歩を進めた。大峯奥駈道のディープな世界を満喫する2日間となった
4日目の山行(弥山小屋~深仙小屋)
歩行ルート図と標高グラフ
最高点の標高: 1910 m
最低点の標高: 1488 m
累積標高(上り): 715 m
累積標高(下り): -1103 m
山行の詳細
さて、弥山小屋を颯爽と出発して八経ヶ岳の山頂には30分程で到着。眺望どころか視界がない。修験に天気は関係ないと、妙な理屈で気持ちを持ち直す。幸い霧雨は濃い霧に変わった。レインウェアのジャケットは脱ぎ、パンツはひざ丈の笹で濡れるので履いたままとし、その上のロングスパッツも着けたままとした
五鈷峰(ごこのみね)の崩落地。高巻から下るところ。ただでさえ、下りの足場が悪いとイラストマップには記されているのに、雨でさらにすべりやすい。この日は普通の登山道でも木の根や岩が滑りやすく、終日ストレス。下りは特に神経を使った。雨で座って休憩することもできず、ひたすら歩くだけとなった
弥山小屋を出発してから3時間半、楊子ケ宿に到着。定員10人程度の小屋。内部は2階もありきれい。ただしトイレなし。水場往復15分。未確認だが水の出は細いらしい
最悪、雨がひどくなったら、この小屋で停滞すればよいと考えていたが、ほとんど霧状態だったので、すぐに出発。ひざ丈の笹からスパッツを伝って靴に落ちてくる水で、次第に靴の中が濡れてきてグショグショの状態になり、快適とは程遠い状態だった
仏生ケ岳を越えて下ると「鳥の水」。ちゃんと出ていた。鳥の水は見過ごしやすいので、当てにしている人は要注意
「孔雀の覗」と呼ばれる眺望ポイント
覗いたら山水画の世界だった(笑)
「両部分け」への下り。下りは滑るので本当に神経を使う
ここへ下りたら、標識の左方向へ進むこと。因みに「両部分け」とは、吉野からここまでを金剛界、裂け目から熊野までを胎蔵界と呼び、曼荼羅世界の境の地とか
「掾(えん)の鼻」とよばれる靡。通過する足元の岩が谷側に傾斜しているが、雨で濡れていても難なく通過可能。岩の上ではなく、右端の谷すれすれの土部分を進めば安心
でた、通称「モアイ像」
「馬の背」と呼ばれる注意個所。剱岳のカニの縦バイのように岩に鉄の杭も打ってあるが全く不要。上の背中部分を容易に通過できる
冒頭の写真。鎖やロープの急登をいくつも登り、中盤の肝の釈迦ケ岳山頂まできた。濃い霧で、あの世でお釈迦様にあったような気に。ここまで来れば、核心部は終わったも同然だ。やれやれ
釈迦ケ岳から尾根伝いに30分の下りで深仙の宿だが、迂回路でかくし水の方に向かった。小屋への到達時間は同じ。写真のように水は安心して汲める。深仙の宿にも水場があるので、ここでは汲まなかったが、水はギリギリ出ている状態だったので、危なかった。
かくし水の下には幕営適地。4つほど平地になっていて、4-5張りは大丈夫。深仙小屋周辺でテント泊する人は、ここでテントを張った方が快適だ
かくし水からはトラバースで小屋へ下る。この橋は欄干に頼らないように。縦方向の木が下で途切れていて、荷重の支えになってない。横木だけで橋の荷重を支えている。一人づつ通過することを推奨(笑)
深仙小屋。定員8人とあるが、6人がいいとこでは?トイレはない。でも霧雨から解放されるだけでありがたい。太陽光で照明がつくのには驚いた。小屋を維持管理されている新宮山彦グループの方々に感謝!
でもなかなかタフな小屋。寝ているときに、コオロギが数匹顔にやってきた。ネズミかヤマネの鳴き声も夜通し聞こえたような・・。幸いチョロチョロすることはなかった。夜中は小屋が飛ばされるかと思うくらい強い風雨だった。ところで、雨で濡れた靴は、ひっくり返すと水が流れるように滴るほど。色々努力したが、少しも乾かず(涙)
水場は2分程。水は細いので時間がかかった。ペットボトルやプラティパスなどの容器を置いて、小屋に戻って一仕事してから回収に来るとよい
5日目の山行(深仙小屋~行仙の宿)
歩行ルート図と標高グラフ
最高点の標高: 1535 m
最低点の標高: 971 m
累積標高(上り): 1611 m
累積標高(下り): -2015 m
山行の詳細
5日目の朝。雨はやんで風だけが残った。それでも御の字だ。靴も靴下も濡れたままで気分はブルー
大日岳の行場は通過。ただでさえ危険なピークなのに、濡れていては何ともならない。膝下の笹をかき分けて右下へと進む。昨夜の雨で笹が濡れており、靴がまた水浸し状態になる。昨夜、乾かすことができても同じだったな。靴が濡れないようなゲーターはないのかな
「太古の辻」に到達。ここが奥駈の半分。北奥駈と南奥駈の境
手前の黒いピークが大日岳、その背後のピークが釈迦ケ岳
風が強く、雲があっという間にかかったり晴れたり。熊野灘方向の山々。谷間に雲海も。本当に山深い
これから進む尾根。また青空になってきた
第25靡。3分の2の靡を通過してきた
「持経の宿」。定員20人。紅葉に囲まれて、いい感じの小屋
内部も驚くほどきれい。囲炉裏の他に薪ストーブもある。トイレあり。照明あり。小屋を建てて維持管理されている新宮山彦グループの方々には頭が下がる。志納金2000円/泊、照明利用100円
小屋のすぐ下の車が通れる林道をほぼ水平移動して、水場まで往復15分。この先の「平治の宿」、「行仙の宿」で泊まる人はここで水を汲めとの標識有り。後でこの意味が分かった
なお、この小屋の周囲でテン泊する方は、水場とは反対方向に林道を5分程進むと、林道沿いに幕営適地が2か所ある。ともに数張りはいける広さ
「森の巨人たち100選」の木
「平治の宿」。定員10人。照明、トイレあり。薪ストーブあり。志納金2000円/泊。照明100円。同じく新宮山彦グループの方々が維持管理されている小屋。シンプルだがきれいな小屋だ。水場は往復20分。斜面を下って、水場から登り返してくる。よく涸れるらしい
転法輪岳(てんぽうりんだけ)、倶利伽羅岳(くりからだけ)、怒田宿跡(ぬたじゅくあと)とアップダウンを繰り返し、行仙岳(ぎょうせんだけ)に登ってくると無粋な文明が現る
行仙岳山頂。ここも広義の大峰山
歩いてきた尾根を振り返る。中央奥が弥山と八経ヶ岳か。随分遠くまで来たもんだ
行仙岳から下ること20分程で「行仙の宿」。定員30人。トイレ、照明、薪ストーブあり。外観の写真を撮り忘れたが、立派な小屋。ここも新宮山彦グループの管理。志納金2000円/泊。照明100円。薪ストーブを利用させてもらい、濡れた靴を完全に乾かすことができて本当に助かった
水場へは往復30分。下り10分、登り返し20分。途中まっすぐ進む間違いトレースあり。左へ下りていくルートが正解。30分程度なら持経の宿の水場から歩荷するよりずっと楽だと思っていた。ところが・・
行仙の水場。しめ縄のずっと奥の岩から細く水が落ちているが届かない。しめ縄の横に柄の短い柄杓とロートあり。つまり、落ちた水がたまった下の落ち葉だらけの水たまりから落ち葉をどけて水を汲めということ。重くても持経の宿の水場で汲んでくるんだったと後悔(涙)
水場には仰天したが、濾過なり煮沸するなりして対応するしかない。まあ、水があるだけで良しとしよう。それにしても、昨夜の深仙の宿と比べると、天国のような快適な小屋だった。薪ストーブにあたりながら、残り少ない焼酎を熱々のお湯割りでチビチビやって、疲れを癒すことができた
山中泊は残すところ、ここと次のテン泊のみ。今夜は快適なので問題ない。明日のテン泊さえうまく過ごせば、熊野への最終日だ。ちょっとほっとした
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