日本で冬を過ごすために北方から飛来する冬鳥。例年、浦安界隈では秋の終盤頃から春の半ば頃まで見られる。ここ数年この季節は、ほぼ毎日のようにトーキョー・ディズニー・リゾートの外側を東京湾沿いに歩き、どれくらいの種類を見つけられるか、カメラで撮影している。
浦安市の調査報告などによれば、越冬のために浦安界隈にやってくる渡り鳥は20種類以上はいるらしいのだが、毎日のように見かける冬鳥から、滅多にお目にかかれない冬鳥までさまざまだ。野鳥なので警戒心が強く、カメラを構えて近づこうとすると逃げてしまう。
今シーズンも、300mmのズームレンズに2倍のテレコンバーター(エクステンダー)を装着して撮影に挑んだ。残念ながら、私の安物のズームレンズは、市販のどのテレコンバーターも動作保証していない。オートフォーカスはとりあえず動くのだが、ピントがしっかり合わない。というわけで、導入以来、老眼でマニュアルピント合わせに苦労しながら毎シーズン撮影している。年々老眼が進み、使用に耐える写真が少なくなっており、後で確認してはガックリの連続。
冒頭の写真はトーキョー・ディズニー・リゾートのホテル群の海側で、堤防に並ぶユリカモメの群れ。今シーズン一番最初に見かけた冬鳥だ。ついでながら、以下はユリカモメに関する逸話:
伊勢物語の「東下り」の段(第九段)で、東国つまり関東に下ってきた主人公の男(在原業平)が、隅田川にやってきたときに鳥の群れに出会う。以下はその記述で、角川ソフィア文庫「伊勢物語」石田譲二訳注をベースに引用した。( )は私が加筆した。
白き鳥の、はし(嘴)とあし(足)の赤き、鴫の大きさなる、水辺の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」と言ふを聞きて、
名にし負はば いざ言問はむ都鳥
わが思ふ人は ありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり
「都鳥という名前なら、都のことを知っているだろう。私の慕う人は今どうしているか教えてほしい」と詠んだ歌。記述されている鳥の特徴などから、この都鳥はユリカモメではないかといわれている。
「ちょっと待って!『京には見えぬ鳥なれば』とあるけど、ユリカモメなら京都の鴨川でも見られるよ」
という指摘が聞こえてきそうだが、鴨川に飛来するようになったのは今から数十年くらい前からとのこと。業平の頃には京では見かけない鳥だった。
いつもの悪い癖で、最初から脱線してしまった。お許しを!
冬鳥シーズンも終わりに近づいたので、何とか使用できそうな写真を選んで、2023秋から2024春にかけて浦安の舞浜エリアで見かけた冬鳥を、以下に総集編としてまとめた。
今シーズンも見かけた冬鳥
マガモ:カモ目カモ科マガモ属
私にとって「ザ・カモ」のマガモ。オスは首から頭にかけてビロードのような質感の緑が鮮やかだ。
つがい。オスの頭は光の反射の仕方で群青色にも見え、古来「青首」とも呼ばれてきた。
左側のメスは、他のカモ類のメスと同じく全体的に茶色系だ。胴の中程の羽根に鮮やかな青色が見え隠れするのと、嘴の先と周囲の黄色が特徴。
ヒドリガモ:カモ目カモ科マガモ属
マガモと異なり、オスは首から頭が赤茶色で額に白い帯がある。オスは胴がグレー系なのに対し、メスは茶色系の羽根をしている。マガモのメスとよく似ているが嘴の黄色はない。
ヒドリガモがマガモと仲良く護岸のテトラポットの上で日向ぼっこをしている。赤茶色の頭がヒドリガモで、黒っぽく見える頭がマガモ。メスは遠くからでは区別が難しい。
コガモ:カモ目カモ科マガモ属
昨シーズン初めて見かけたコガモ。いつも持ち歩くカメラを持たずに出かけたときで、あわててスマホで撮影したが、ズームの限界と画像の質で、特徴をうまく捉えることができなかった。
今シーズンはピントが甘いながらもカラフルな頭を持つオスの特徴をしっかり捉えることができた。メスが一緒に入った写真はピンボケだった。メスは茶色系だが、胴の中程の羽根に見え隠れする鮮やかな緑色が特徴的。
スズガモ:カモ目カモ科ハジロ属
横っ腹の白いのがスズガモのオス。胸から上と後部が黒色で、黄色い目がかわいい。頭部は光の当たり方で深い緑色がかって見えることも。メスは他のカモと同じように茶色系だが、嘴の付け根の頬辺りが白い。
飛行時にヒュッ、ヒュッという羽音をさせ、この羽音が鈴を振るように聞こえるので「鈴鴨」という。今シーズン初めて近くの低空を通り過ぎて行った際に、それらしい音を聞くことができた。
浦安にやってくる冬鳥の中では、数の上で断トツ1位だったスズガモ。ざっと700 – 800羽は居ようかという大群が海に浮かぶ光景は圧巻だった。
昨年の総集編で、「昨シーズンもここ舞浜沖に飛来した数が減っていたが、今シーズンはさらに少なくなった印象だ。数年前に比べると3割くらいだっただろうか。」と書いたのだが、今シーズンはもっと減って数年前と比較すると1-2割まで落ち込んでいる印象だ。絶対数が減っているのか、他の地域で過ごしているのか、ちょっと気がかりだ。
ホシハジロ:カモ目カモ科ハジロ属
オスは背中がグレー系の白色で、首から上はビロードのような質感の赤茶色。目は赤い。背に星屑の模様があり、翼に白帯がでるので「星羽白」というらしいが、星の模様は見えないし、翼を広げたときはバタバタさせているので白帯も見たことがない。いつも静かに浮いている印象。メスは他のカモと同じように全体が茶色系。
左側がメス、右側がオスの写真。撮影しようと歩を進めると、すぐに遠ざかってしまうので後ろ姿の写真が多い。でもマガモやヒドリガモのように飛び立って逃げるわけではない。
キンクロハジロ:カモ目カモ科ハジロ属
今シーズン見かけたのは1回のみ。メスばかり三羽だった。あわてて撮影したのだが、ピントをうまく合わせられなかった。三羽はあれよあれよという間に岸から離れていき、目一杯ズームアップしてもうまく姿を捉えられなかった。なかなか見かけないので、メスだけでも見られたのはラッキーだった。
上は一昨年に撮影したメスとオスの写真。胴が白いのがオス。一見すると、オスはスズガモによく似た黒と白のツートンカラーで目も同じ黄色の鳥だ。スズガモの群れに紛れ込んでいることも多い。
スズガモと異なり背中の黒色がしっかりしていて大きく、後頭部にはメスより立派なポニーテールというか、坂本龍馬の束ねられた後ろ髪のような冠羽があるのが特徴だ(上の写真右下に挿入した写真)。来シーズンにはまたお目にかかりたい。
ウミアイサ:カモ目カモ科ウミアイサ属
今シーズンも同じ場所(旧江戸川が東京湾に注ぎ込むあたり)にやってきた。最初はメスしか見かけなかったが、シーズン後半にオスも現れた。オスは黒白茶の三色が特徴的。同じ仲間にカワアイサがいるが、カワアイサのオスには冠羽がなく、首の白が胴までつながっている点が異なる。
メスは白斑のある茶色系。オス同様に冠羽とよばれる飾り羽が後頭部にある。
オオバン:ツル目クイナ科オオバン属
オスもメスも全身真っ黒で、顔の真ん中と嘴が白い特徴も同じなので区別がつかない。目はオスもメスも赤い。川や海の岸に近いところに数羽の群れでいることが多い。
川岸に群れで上がって、草なのか昆虫なのか分からないが何かを啄んでいる姿を時々見かける。ヒドリガモの群れが一緒に川岸に上がっている光景も目にする。
カンムリカイツブリ:カイツブリ目カイツブリ科カンムリカイツブリ属
名前の通り頭に冠羽があるのだが、イラストや写真で見かけるような目立つ冠羽ではなく、浦安界隈のカンムリカイツブリは地味系の冠羽だ。上の写真のようにスズガモの群れと一緒にいることが多い。
春になると白と灰色のツートンから、グレーの部分が赤茶色の夏仕様に変身する。冠羽も目立つようになる。
ハジロカイツブリ:カイツブリ目カイツブリ科カンムリカイツブリ属
カンムリカイツブリに比べると、ハジロカイツブリはずっと小さくひ弱に見える。1-2羽か、多くても数羽程度の群れで見かけることが多い。この体で遠くから渡ってくるのが驚き。赤い目が可愛い。カイツブリは潜るのが得意で、20~30秒は潜っている。上の写真は冬毛の灰色。
カンムリカイツブリ同様、春になると茶褐色になってくる。
セグロカモメ:チドリ目カモメ科カモメ属
黄色いくちばしの先の下側に赤い斑点を持つのが特徴。浦安エリアには年中いる留鳥のウミネコがいるのだが、大きさもパッと見も似ている。違いは、ウミネコのくちばしは先端の上下に赤と黒色の斑点を持つこと。セグロカモメは下のくちばしのみ赤斑がある。
同じカモメでも愛嬌のあるユリカモメとは随分違う。舞浜沖で見かけるカモメ類の中では大きい部類。大きさは、ユリカモメ<カモメ<ウミネコ<セグロカモメ<オオセグロカモメの順。
このうちウミネコは年中いる留鳥で、他は全て冬にやってくる渡り鳥だ。ただし、このエリアでカモメを見たことがない。カモメの嘴には赤斑などはない。
セグロカモメとオオセグロカモメのサイズはさほど変わらず、羽根のグレーの濃さが強いのがオオセグロカモメだが、見分けは難しい。
ユリカモメ:チドリ目カモメ科カモメ属
東京湾周辺でもよく見かけ、その親しみやすさから都民の鳥にも指定されており、新橋と豊洲を結ぶ新交通システムの名称にもなっている。
GW頃には顔から上が真っ黒になり、夏仕様になって北へと飛び立っていく。ちなみにユリカモメの英語名は、black-headed gullという。緯度が高いイギリスでは夏の間を過ごす夏鳥で、黒い頭部が普通の姿なので、このような名前がついている。
今シーズン初めて見かけた冬鳥
ミヤコドリ:チドリ目ミヤコドリ科ミヤコドリ属
「みやこどり」という発音の鳥は2種類いる。一つは冒頭で紹介した在原業平が詠んだ歌に出てくる「都鳥」、つまりユリカモメだ。
2つ目の「みやこどり」は上の写真の「ミヤコドリ」。同じチドリの仲間だが、全く別の種類(別の科)。鳥の名前としては、こちらが本家の(学術名上の)ミヤコドリだ。飛んだ時に羽に太い白帯が現れる。実にくっきりとした目立つ白帯だ。
では、なぜこの鳥をミヤコドリと言うのか? 調べてみたら、江戸時代後期の本草家(ほんぞうか:薬となる植物や動物、昆虫、鉱物などの研究者)である北野鞠塢(きたのきくう)が、冒頭で引用した伊勢物語の「しろき鳥」の部分を『し』ではなく、『く』の間違いだとして、黒い鳥で嘴と足が赤く、シギと同じくらいのサイズのこの鳥こそが「都鳥」だと主張したことから、「ミヤコドリ」の名前になったとのこと。明治になり、英名で「Oystercatcher」と呼ばれるこの鳥の学術上の和名が「ミヤコドリ」として登録されたようだ。
しかしながら、この鳥は英名のごとく牡蠣などの貝類を主食とし、干潟を歩いて餌をとるとのこと。上の写真で鳥の手前に広がるのは岩ではなく貝殻が堆積したところで、いかにもこの鳥の好きそうな場所だ。
「水辺の上に遊びつつ魚(いを)を食ふ」という伊勢物語の記述は、群れで海面を飛び回り、小魚を捕まえた仲間を追いかけ回すユリカモメの光景こそがピッタリだ。どう見ても、伊勢物語の「都鳥」をこの鳥(英名 Oystercatcher)だとしたのは、北野鞠塢の曲解のように思える。
また脱線してしまった。スミマセン
今シーズン見かけなかった冬鳥
オナガガモ:カモ目カモ科マガモ属
三シーズン前に一度だけ見かけて以来、全く見かけていない。グレーを基調に白や黒がアクセントになったスマートな美しい姿にまたお目にかかりたいものだ。
オオセグロカモメ:チドリ目カモメ科カモメ属
こちらも三シーズン前に撮影したオオセグロカモメと思われる鳥の写真。精悍な顔つきと濃いグレーの羽、ピンク系のアイリングが特徴。
今シーズン、舞浜で私が確認できた冬鳥は13種類だった。浦安界隈にやってくる冬鳥は20種ぐらいとも言われているので、見逃している鳥も少なからずいるのだろう。今シーズンの残りで、さらに見つけることができたらこの記録を更新していきたい。
ところで、くどいようだが「都鳥」についてまだ疑問が残る。都が京都にあった平安時代の頃に、なぜ東国ではユリカモメのことを「都鳥」と呼んだのか? 京の都に飛来する鳥でもなかったのに・・。
ユリカモメの目とその横にある黒い模様の組み合わせが、平安貴族の殿上眉(麻呂眉ともいう。眉毛を剃って額に手描きした楕円の大きな眉)の顔に似ていたので、京風(都風)の顔の鳥という揶揄を込めて「都鳥」と名付けたのだろうか?笑
ご存じの方がいらっしゃれば、ぜひとも教えていただきたくお願いする次第だ。