厳冬期八ケ岳 赤岳から硫黄岳へ(2020/02/11-12)

山の記録

2020.02.13 10:38

計画している熊野古道歩きがなかなか実現できない。5泊6日で雨の降らないタイミングを見計らっているのだが、なかなか天候が安定しない。今週も後半が崩れる予報になり断念。


火曜日と水曜日は晴れそうなので、代わりに山へ出かけることに。久しぶりの南アルプスの鳳凰山か八ヶ岳の赤岳に的を絞り、最終的に赤岳から硫黄岳への周回にした。30年以上前に泊ったことがあるように思うものの、記憶が曖昧な展望荘に泊ることにして、1泊2日で出かけた。

冒頭の写真は2日目の朝、赤岳展望荘からモルゲンロートに染まる赤岳の姿。

まずは初日。展望荘までなので、ゆっくりスタート。といっても尾張の実家を5時半に出発。最近、足の疲労感がハンパないので、少しでも歩く距離を減らすべく美濃戸の赤岳山荘まで車で進むことにした

美濃戸口の八ケ岳山荘から林道を進むのだが、この道が難敵。急坂、でこぼこ、凍結の悪路。大抵の人は八ヶ岳山荘前の駐車場を利用して、小一時間かけて歩いて美濃戸まで行く。私も冬期はそうするときが多いのだが、今回はSUV+スタッドレス+チェーンで進んだ。結果的にはこれが大正解で、帰りの長い林道歩きで足が痛くなってしまい、赤岳山荘まで戻るのがやっとだった


駐車場から5分くらい進むと南沢と北沢の分岐に出る。今回は南沢から入って行者小屋まで登り、そこから文三郎(ぶんざぶろう)尾根経由で赤岳に進む。山頂直下の赤岳展望荘に宿泊し、2日目に横岳、硫黄岳へと縦走し、赤岳鉱泉小屋に下りて北沢を戻ってくる周回コース


南沢の樹林帯をつづら折りに登っていくと比較的緩やかな場所に出る(上の写真)。ここからは河原歩きで、目の前にはアルパインクライミング(ロッククライミング)のメッカ、大同心と小同心の尖がったピークを見ながら進む。南沢ルートで一番好きなスポットだ


しかしながら今年は河原歩きは少しで、すぐに夏道の樹林帯に戻るようにトレースがついていた。行者小屋直下まで樹林帯を再び進む

行者小屋の到着。冬期は週末のみ営業。いつもはここでストックからピッケルへチェンジし、ヘルメットを被って靴には12本爪のアイゼンを装着する。ついでに腹ごしらえもするのだが、風があると寒くて装備を換えている間に手はかじかみ、腹ごしらえもままならない。今回は風があまり通らない樹林帯の道だったので、その中で道具の換装とランチを済ませた。結果的には、行者小屋付近は風がさほどなく、ここで準備も可能だった

小屋の前のテン場。水場もしっかり水が出ていた。いつかこの時期にテン泊してみたいが、ここまで荷物を運び上げるのは大変だろうな。マイナス10℃から20℃の極寒の夜にも耐えられるかどうか・・・。奥には阿弥陀岳と中岳のピークが見えている

行者小屋から文三郎尾根を進む。最初はいきなりの急登できつい。喘いでばかりで写真を撮るのも忘れた。急登を終えるとこの風景。中岳からの尾根に合流するのだが、いつものことながら近づくにつれて風が強くなる。文三郎には梯子や鎖が何か所もあるのだが、殆ど雪の下になっている。アイゼンとピッケルを効かして雪面をしっかり捉えて進む

文三郎尾根の右手側には阿弥陀岳(奥)と中岳(手前)の姿が美しい。厳冬期の阿弥陀岳にはまだ登ったことがない。数年前に某G大学の山岳部が阿弥陀岳から行者小屋方面に下山中にガスで道を間違えて、行者小屋とは反対側に進んでしまい、再度、阿弥陀岳に登り返して行者小屋に下りたのだが、遅れた最後部の二人が遭難死するという痛ましい事故があった

文三郎尾根から振り返ると、北アルプスの槍ヶ岳から穂高連峰の稜線がくっきりと見えた。素晴らしい天気だ。今回は天気予報がバッチリ当たった

文三郎尾根を登っているとヘリが飛び回り始めた。どこかで事故でも起きたのだろうかと思っていると、文三郎を登り切った稜線部分にいた私のすぐ斜め上でホバリングし始めた。ここら辺りで事故かと思いきや・・・

レスキュー隊員3名が同時に下りてきた。その後にもう一人も。特に遭難者を吊り上げるようなこともなかった。この3名は間もなく私がこの写真を撮影していた尾根の合流ポイントまで上がってきた。やばい、直々にご指導を食らうのかと肝を冷やし、さっさと先に進む(汗)

赤岳山頂へ向かう最後の岩場の急登部分に突入。夏場でも緊張する場所だが、積雪期は岩が雪の下になり、歩きやすくなっている反面、きわどい箇所も多く、いつも緊張を強いられる。おかげで足の疲労感もどこかに吹っ飛び、かえって集中できてすんなり登ることができた(笑)

誰もいない山頂で自撮り。南アルプス、中央アルプス、北アルプス、浅間山から上越の山々、妙高山などの頚城山塊、360度の絶景を楽しむ

そして富士山もね。筋肉痛で足の状態が万全ではなかったが、本当に出かけてきて良かった。最後の岩場は北西の風が岩稜で遮られ、風に煽られることもなく通過することができた

山頂から下ったところに立つ赤岳展望荘にチェックインし、しばらくビールとつまみでまったり。5時からの夕食(山小屋では珍しいバッフェスタイル)をワイン片手にのんびり取っていると、サンセットの時間をすっかり失念。慌てて小屋から出ると阿弥陀岳に沈む夕日を逃した(泣)


レスキュー隊3人も小屋にやってきていた。話を聞くと前日の悪天の中で遭難者が出たとのこと。真行寺尾根と県界尾根の間の大門沢に落ちているのをヘリから確認し、反対側の中岳と赤岳のコルの部分にヘリから下りてこちらにやってきたようだ

私が赤岳山頂を後にすると、3人が山頂に立っているのが見え、県界尾根を少し下って何かしていたが、双眼鏡で遭難者を確認していたとのこと。この日は時間切れのため翌朝現場に向かった。本当にご苦労様だ。ご迷惑をかけないように心がけたい。遭難された方のご冥福を祈る

翌朝6時からの朝食を終えるとご来光。夜通し風が強かったが、展望荘のあたりは風の通り道なので朝もまだ風が強かった。これから向かう横岳への縦走ルートは上級者コースに分類されているコースだ。このまま大人しく山を下りようかと逡巡する

冒頭の朝陽に輝く赤岳山頂。右が展望荘

赤岳の稜線の左奥には富士山。今日の予報は午前中は晴れ、午後から天候が崩れ、夜には荒れる。富士山上空の雲が、予報が当たりそうなことを物語る

進むか止めるか迷っている横岳方面の稜線もほんのり赤く染まる。依然として風は強い

北アルプスンの稜線もモルゲンロートに輝いている。しばらく外にいると体が冷えていく。小屋に入って暖を取り、身支度をする

身支度をしていると、心持ち風が収まってきたような・・。小屋番さんに聞くと、同じ意見。意を決して横岳への縦走に進む。宿泊者の中では、私が一番手のようだ。小屋から地蔵尾根への分岐を越えてくるここまでの道は、細い尾根道で強風が吹くと体を持っていかれそうになる。梯子に取り付いてしまえば、北西の風は岩稜に遮られて、写真の右上の雪が続いている部分(日の出ルンゼの上部)を登りきるまでは風に悩まされることはなく進むことができた。ただし、右側に落ちないよう気を使った

まずは二十三夜峰の直下へ向けて標高を稼ぐ。岩の背後が「日の出ルンゼ」と呼ばれる最初の難所

日の出ルンゼを終えて振り返る。真ん中の大岩(二十三夜峰の下部)につながる左側の稜線直下の雪の斜面を上がってきた。大岩の下を巻いて、大岩沿いに急斜面を上がり、上部をこちら側へトラバースしてきた。雪の状態は朝早いこともあり締まっていて安定している

次は鉾岳。この岩山だけは左側に下って巻く。それ以外は、すべて右側を巻く

鉾岳を少し下ると斜面のトラバース。今回は雪の状態も良く、比較的すんなりと第2関門を通過できた

トラバースを終えて振り返る。通過中は足元に集中して谷側を見ないこと(笑)。この後に稜線へ戻る

ここまで辿ってきた稜線を振り返る。左奥のとんがりが赤岳。展望荘で同宿だったソロの後続者二人が見える。一人目は石尊峰を進行方向右側に巻いているところ。二人目の人は鉾岳のトラバースを通過中(手前の白い稜線のすぐ奥。写真中央のやや下)

これから進む横岳が左奥。真ん中のやや右側は三叉峰。横岳の左奥には縦走ゴールの硫黄岳のフラットな山頂が少し見えている

横岳山頂。雪に埋まった横岳山頂標の右奥に赤岳、はるか左奥に富士山

赤岳から辿ってきた稜線。稜線の右側はアルパインクライミングの岩場。この日に取り付いているパーティは見えなかった

これから向かうフラットな硫黄山頂。いつも風が強く雪が飛ばされて積もらない。左奥には八ヶ岳連峰の北の端にある蓼科山(たてしなやま)。写真のはるか右奥に妙高山、火打山、焼山の頚城(くびき)山塊も見えている


さて、硫黄岳に向かう前に最後の難関へ向かう

横岳山頂から細尾根を少し下る。その先に右手に下る積雪期用の梯子がある。そこを下って写真中央の黒い岩の下の雪の部分を通過する。通称、カニの横這い。立山の剱岳のカニの横這いが有名だが、ここも積雪期はいやらしい。特に鎖が出ていないと厄介だ。この日はこの位置から鎖が見えてほっとした

鎖の左側を通過していく。左は相当下まで落ちていく。短いが緊張する部分。鎖の先で細尾根の反対側に戻る

細尾根の反対側の急斜面をトラバースし終えて振り返る。右下の足跡が分かるだろうか。何を好き好んでこんなとこを歩いているんだか・・・。これにて難所は終わり

あとは硫黄に向けて稜線を楽しみながら歩いていく、と言いたいところだが、ここから硫黄岳までが風の銀座通り。この日も時々体を持って行かれそうになりながら下って登り返した

フラットな硫黄山頂。誰もいない。山頂標の右奥に御嶽が見えている。左奥は中アの山並み

山頂標を背にして振り返ると、硫黄の爆裂火口。約200万年前から1万年位前まで噴火を繰り返して形成されたといわれている。この火口の下の方には本沢温泉がある。標高2千メートルにある露天風呂もある。硫黄泉のいい温泉だ。30年以上入っていないので、再訪したい

北アの後立山連峰。白馬三山(白馬岳、杓子岳、白馬鑓ケ岳)がくっきり見える。左端は唐松岳

左に進むと五竜岳と双耳峰の鹿島槍ヶ岳。ともに日本百名山

さらに左方向には槍ヶ岳の穂先が見える。手前に重なるように見える白い稜線は常念山脈

槍の左には穂高連峰。北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳。奥穂から左に続く稜線は、秋に数十年ぶりに再訪した奥穂から西穂へ続く稜線

赤岳から硫黄岳まで続く稜線。今日も楽しませてもらった。感謝感謝!

硫黄岳から写真中央奥の「赤岩の頭」の手前の分岐まで下る。赤岳鉱泉から登ってきた人が立っているあたりがちょっと注意が必要な個所。あそこを越えてしまえば、気を抜いて下るだけ

赤岳鉱泉小屋。日によってステーキが夕食に出る。金曜日は確率が高い。私も金曜に味わった。ここのテン場も人気がある。遠く背後に阿弥陀岳の頭

赤岳鉱泉名物の通称「アイスキャンデー」。今日もアイスクライミングの練習をしている

赤岳鉱泉から先はこんな感じの雪道トレッキング。何とも気持ちが良い。赤岳鉱泉までなら登山経験のない人でも雪山ハイクを楽しめる(靴や簡易アイゼンなどの最低限の道具は必要だが・・)

沢の岩が赤い。その名の通り、鉄分を含む鉱泉が流れるので赤くなる

最後は長い林道歩き。右側の沢は完全に凍っている。ここの林道はちょっと退屈で疲れる。この日もだんだん右足の先が痛くなってきて、駐車場に到達するのがやっとだった。今回も天候に恵まれた。1日早くても遅くてもダメで、素晴らしい山を楽しむことができた


今回は2回目の厳冬期の八ヶ岳縦走だったが、1回目よりはすんなりとできたというのが実感だ。初めて挑むときは、降雪後でトレースがない場合を想定し、雪のないシーズンに2回下見を行い、ルート取りをしっかりと頭に入れたし、直近のレコやブログを読み漁り状況把握にも努めた


今回は1回目の時の記録を復習して臨んだが(ヤマレコは備忘録として本当に助かる)、1回目に比べると用意周到さにおいて見劣りする。慣れや慢心は怖い。今回のレスキュー隊出動の事故に直面し、気持ちを新たにした次第だ。これからも自分にとっての挑戦的な山行は続けていくつもりだが、十二分な準備とベストコンディションでの決行を心掛けたい

なお、本山行の詳細については、以下の記録を参照されたし

山行記録: 八ヶ岳。赤岳~横岳~硫黄岳へ周回。 ☜ ヤマレコの記録

タイトルとURLをコピーしました