米国では相変わらずBLM(”Black Lives Matter”) のデモが続いている。このBLMという言葉は、ミネソタで起きた事案(白人警官が膝で黒人男性の首を抑えつけて窒息死させた事件)により生まれたとてっきり思い込んでいたが、実は2013年にフロリダで発生した白人警察官による黒人少年射殺が発端となった抗議活動の際に生まれた言葉と知った
今回は、これまでにない大きなうねりとなり、BLMは米国から世界各地に拡がっている。スマホやYouTube、SNS、Twitterなどのツールの普及により、その場に居合わせた一般人によってその瞬間が記録され、その映像がネット上で瞬く間に世界中に拡散する時代だ。英語での発信であることが、情報の伝搬速度、範囲を大きくしている。しかし、すでに始まっている自動翻訳がさらに機能アップすれば、早晩言葉の壁は障害になることもなく、マイナーな言語だろうと世界中に伝わるようになるだろう
今回のBLMは、発端となった事件以降も警官による不適切な対応が続き、人種差別の是正や警察改革を求める声がどんどん大きくなっている。米国ではこれまでにも警官による黒人への過剰な取り締まりやその際の理不尽な暴行はたびたび発生しており、そのたびに改革が叫ばれてきたが、警察の体質はなかなか変わらなかった
一方で、黒人側にもまったく非がないというわけではない。デモに乗じて店舗の破壊や略奪などが発生することも少なくなく、取り調べや逮捕時に反撃にでることもあり、警官としても自らの身を守る必要があるし、警察としてもそのような危険な場合を想定して対応マニュアルを作成し訓練も行っている。そういう事情があるにせよ、最後の手段であるべき一線を安易に越える対応が正当化されるものではないし、警官の横暴な振舞いや横柄な態度、もの言いが許されるものでもない
米国で暮らした通算7年間で、私が経験した警官の対応を二つ紹介したい。一つ目は中西部のとある都市での経験。訪問先から空港に戻り、レンタカー返却のため標識を探しながら走っていたときのこと、標識を見つけて車線変更をしようとした瞬間、すぐ斜め後ろに車がいたので慌ててハンドルを戻した
運の悪いことに、その車はパトカーだった。横に並んだパトカーの窓が開き、白人警察官がものすごい形相で、“USE THE BLINKER!!” と怒鳴りつけてきた。確かに方向指示器を出すことなく車線変更しようとしたが、そこまで怒鳴らなくても・・と思いつつ、威張りくさった警察官だな、とやりすごした。こちらがアジア系だからかな、と少々ひがみもした
二つ目は東海岸の南部の州に駐在していた時に、以前駐在していた西海岸のカリフォルニアの会社を訪問した際のこと。ローカルの小さな飛行場からレンタカーで会社へ向かい、久しぶりに仲間と旧交を温めた。私のために開いてくれた夕食パーティーの後、レンタカーでホテルへ向かう時に、座席の位置やアームレストを調整していたら、車がちょっと蛇行した
いきなり、後ろでサイレンが鳴り、ライトをパカパカさせて、パトカーが急接近し停止指示。警官がやってきて、車がふらついているが、飲酒やドラッグはやっていないな、と聞いてくる。座席やアームレストを調整していたと話したが、車からゆっくり下りて出てこいという。下りようとすると、もう一人の警官が銃口をこちらに向けて離さない
尋問した警官が、あそこまでまっすぐ歩けという。歩くと、今度はそのまま同じように戻って来いという。往復する間、もう一人の警官はずっと銃口をこちらに向けていた。今にも私が逃げ出すか抵抗するかのごとく、すぐに発砲できるよう構えて威嚇していた。幸いなことに、二人の白人警官は終始紳士的な応対で、気を付けて運転するよう告げて立ち去った。私がスーツにネクタイ姿だったこと、いかにも出張でやってきた外国人という英語だったことも影響したのかもしれない。かれらの挙動はマニュアルに従った模範的な取り調べだったとは思うが、銃口を突き付けられたのは、人生これが初めてだった(そして最後だと願いたい)
銃社会の米国のこと、誰が銃を持っているか分からないので、免許証を見せろと言われて、いきなりダッシュボードなどを開けようとしようものなら、即座に銃を向けられ制止される。ちゃんと事前に、ダッシュボードに入っているので開けていいか、と確認した上でゆっくり動作する必要がある。こういう社会なので、上述のような警官の対応になる
ジョージア州で起きた警官による黒人容疑者の射殺事件。警察官が黒人に飲酒運転の疑いで手錠をかけようとしたところ、それまで尋問に素直に応じていた黒人が急に暴れ出し、警察官ともみ合った後に、警察官からスタンガンの一種のテーザー銃を奪って逃げようとした。そのすぐ後に警官に射殺された映像がニュースやネットなどで流れた。抵抗した上にテーザー銃を奪って逃げようとした黒人にも問題があるが、威嚇射撃も足を狙って打つこともなく、即射殺というのは明らかに行き過ぎている
まじめに働き、成功を収める黒人も増えているが、社会の底辺にとどまっている人たちは依然として多い。奴隷制のころから引きずる社会構造の問題の根は深く、本音と建て前は米国にも存在する。KKKのような白人至上主義の秘密結社が存在し、隠れ支持者もいる
社会が変わるにはまだまだ時間はかかるだろう。それでも米国という社会は、確実に変わってきたし、これからもあるべき姿に向けて変わっていくと私は確信している。一方、警察改革については、即座に対応してほしいなぁ、と願う。そして横柄で怖い警官が、優しいおまわりさんに変わってくれるといいなと思う
(筆者注:日本では「黒人」という言葉を何気なく使っているが、米国では”Black people”(黒人)ではなく、”African American”(アフリカ系アメリカ人)という言葉を使うようになってきている。日本だけでなく、世界の多くの国では未だ一般的に”Black people”(黒人)という言葉を用いていることから、このブログでは読み手に馴染みがある「黒人」を用いた)