2017.06.24 12:06
2日目の山行(北尾根核心部)
歩行ルート図と標高グラフ
最高点の標高: 3099 m
最低点の標高: 1516 m
累積標高(上り): 965 m
累積標高(下り): -1752 m
山行の詳細
2日目は今回の核心部、北尾根を進んで前穂に登頂する。北尾根は落石による怪我や滑落事故も多いバリエーションルートだ。ペンキの印も鎖や梯子も無い。自分で登れるルートを見極めながら進まなければならない。気を引き締めて行こう
ヘッドランプを点けて早朝に涸沢ヒュッテを出立。5峰と6峰のコル(5・6のコル。コルとは鞍部とも呼ばれ、峰と峰の間の低くなった所)に向けて登っていると奥穂の稜線がモルゲンロートに耀き始める
5・6のコルに向けて登っていくと大岩に赤丸印。この岩を巻いてコルを目指す
上部にある次の大岩にも赤ペンキの矢印あり。バリエーションルートとしては珍しい親切さ。この先には印は無かった。印がなくても、上方に見えているコルを目指して進むだけ。うっすらと見て取れる踏み跡も2本あった
5・6のコルに到着。5峰への尾根を見上げる。コルにはテント数張り分のビバークスペースがあった
登ってきた斜面と反対側には雲海が広がっていた。八ヶ岳が雲海に浮かぶ
南プスの甲斐駒ヶ岳の左に富士山も浮かぶ
眼下には奥又白池が見える。井上靖の『氷壁』などの山岳小説に登場する池だ。アルパインクライミング(ロッククライミング)の前穂東壁へはここをベースにアクセスする
5峰へは尾根通しで進む。呆気なく終わった
5峰は基本的に尾根通しだが、上部で大岩(写真右側の壁)の左側(又白側)を巻いて稜線に戻った
5峰山頂からは、4峰とその右奥に3峰の頭が見える。北尾根の核心部だ
まずは4峰の稜線。真ん中あたりで左(又白側)に巻いたが、それ以外は稜線通し
4峰の頂上へ向かう。ピーク直下は右(涸沢側)に巻いた
4峰ピークに到達。ここまで快調だ。これなら行けそうと確信した。でも最難関の3峰の登りはこれから。気を引き締める
3峰へ向かう前に休憩がてら4峰山頂からの展望を楽しんだ。奥穂山頂(右)から左へ馬の背、ロバの耳、ジャンダルムと続く険しい稜線。一般登山道としては最難関の一つで、地図では破線になっている
ロバの耳(右)とジャンダルム(左)。馬の背からジャンまでは奥西縦走路の一番面白い部分。30歳から50代半ばまで山を中断したので、20代後半にやって以来行っていない。今回を皮切りに北アにも本格的に復帰するつもりなので、そのうち再訪するとしよう
4峰山頂からの槍ヶ岳方面の眺め。風がなければ、いつまでものんびり眺めていたいのだが・・。体が冷えてきた
10代、20代に何度も登った槍の穂先をアップ。こちらも再訪が楽しみだ。中央左には槍ヶ岳山荘(通称、肩の小屋)が見える
槍とは反対方向に南アルプスが雲海に浮かぶ。左端は富士山。最高の眺めだ。こんな日に北尾根で北ア復帰を果たせるとは何と贅沢な・・
4峰山頂から3峰の全容を確認。さぁ、最大の難所の3峰に向かおう。真ん中より少し上に3峰のチムニー(クラックが2本ある部分)が見える
チムニーのアップ。右のクラックを進むか、左端の岩を進むか、どう攻略するかはあそこで考えよう
3峰頂上直下をアップ。写真中央の右側に突き出している岩が通称テラス。先行者2人組がまさにテラスに到達するのが見える。彼らはテラスに立って向こう側へ進んだ。左上の岩の間を抜けて行く強者もいるが、私は写真右下あたりを右側(涸沢側)に巻いて進んだ
さて、3峰の取り付きに向けて、4峰頂上から3・4のコルへ下る。ここの下りは一般登山道と同じ。北尾根で唯一気を抜いて歩ける部分。しばしの息抜き
3峰の取り付き。この稜線を進み、先にあるチムニーすぐ下の大岩を左側(又白側)に撒いて稜線に戻ればチムニーの前に出るはず
ところが、大岩を左側(又白側)に巻いたとき、稜線へ復帰するところを巻きすぎてチムニーがある場所の左側の斜面をヘツリながら強引に突っ切ってしまった。チムニーの左側クラックにあるトンネルを抜けた向こう側まで巻いてしまった
巻き過ぎた区間は死ぬほど怖かった。後から考えれば、冷静に来た道を引き返し、稜線に戻ってチムニーを通過すべきだった。初めての北尾根でソロだったので、「北尾根はさすがに手ごわいな」と疑いもせず、正しいルート取りだと思い込んでそのまま巻き続けてしまった
実は、チムニーの下で、クラックも左端の岩も難しそうだったら、上の写真のトンネルを向こう側からこちら側に這って潜り抜けることも考えていた。今回は危ない目をして岩壁を巻いて、トンネルのこちら側にひょっこりと出てきた形になった
なお、写真左側の白い部分は、岩に日光が当たっている部分で色が飛んでこのような写真になった
トンネルの出口を右手に見ながら進み、写真のように前方の穴を抜けて行く。上部の蓋のような大岩は、チムニー上部にある大岩で、チムニーを登って通過すれば、この岩の上を写真右から左へ進むことになる
私は蓋のような大岩の下を抜けて向こう側に出て、大岩の上に這い上がった。這い上がると上の写真の岩壁になる。ここは手掛かり足掛かりがしっかりあり、簡単に登れる。むしろ大岩の上に這い上がる方が大変だった。ザックを先に岩の上に上げて、空身にして体を引っ張り上げた
その後は3峰直下まで尾根伝い。上述したように、尾根の先で頂上直下のテラスの下を右側(涸沢側)に巻いて進んだ
3峰直下から登ってきた岩場を見下ろす。眼下に4峰からの下り路と3・4のコルが見える
4峰からのジグザグの下り路を振り返る。奥の稜線は常念山脈。4峰のピークの奥が常念岳の三角錐
テラス下を涸沢側に巻いて3峰ピークに到達。4峰、3峰の両難所を難儀しながらも無事通過
2峰への稜線は尾根通しで進んだ。ピーク直下を右(涸沢側)に巻いた
2峰の先端。ここを下る。すぐ下の岩の左側をクライムダウン。右側は多くの方がロープを使って懸垂下降するところ
最後の難所となる2峰下りのクライムダウンを終えて振り返る。やれやれ。白い部分(懸垂下降部分)の右側を下りた。悪戦苦闘するかと覚悟していたが、2-3分で下りられた
2峰の下りを終えれば、北尾根は終わったも同然。残る前穂本峰への登り。ビクトリーロードだ。最上部左には、前穂山頂の端っこで寛ぐ登山者が見える。稜線の左端にも山頂の登山者が見える。さぁ、気を抜かずに行こう
前穂山頂の端に登り上げて北尾根を振り返る。左下に2峰の下りが見える(白い部分)。2峰のピークの右下には3峰のピークが見える。その後方には前日に通ってきたパノラマコースの屏風の耳の稜線が見え、ずっと後方に常念山脈の稜線が見える
前穂の山頂標に到達。山頂標の右奥には槍ヶ岳のピークが見える。初めての前穂の山頂は思っていたよりも広かった。赤いザックの登山者のもう少し向こう側から上がってきて、こちらの山頂標へとやってきた
そして3000m峰26座完登。奥穂からジャンを背景にして居合わせたお姉さんに取ってもらった。緊張でまだ顔が引き攣っているような・・。30年ぶりの北ア復帰にしては、ちょっと難ルートに挑みすぎたと深く反省。それにしても素晴らしい天気だ。コンディションにも助けられた
前穂山頂から明神岳の山頂ピーク群を見下ろす
奥穂から西穂への稜線。一般登山道としては北ア最難関ルートの一つ。ペンキの印や鎖などがなかったら、こちらの縦走路もバリエーションルート並みの面白いコースだ。ぜひとも再訪したい
前穂から岳沢方面への下り。振り返る。こちらは人気ルートなので、前穂を目指す多くの登山者とスライドする
もう少しで紀美子平(登山者のいる所)まで下る
紀美子平。多くの人はここにザックをデポして身軽に前穂に向かい、ここで荷物を回収して奥穂へ登ったり上高地へ下山したりする
紀美子平から奥穂へと続く登山道が見える。そのすぐ上に連なる吊尾根の稜線がきれいだ。中央の尖がりは涸沢槍の穂先
西穂への稜線。上高地から岳沢小屋を経て奥穂へ向かう重太郎新道からは、奥穂から西穂への稜線が本当にきれいに見える
重太郎新道をどんどん下る。劇下りだな。中央左に岳沢小屋が見えてきた
岳沢小屋のテン場まで下りてきた。ここから上高地までの下りは緩やかだ
岳沢小屋に到着。すかさずビール缶を調達して祝杯、と行きたいところだが、帰りの車の運転があるので我慢(泣)
上高地の河童橋手前。最高の天気の下で北尾根登攀を楽しんだ。ありがとう
山行を終えて
今回の前穂で世に言う3000m峰26座を完登することができた(記録最後の一覧を参照されたし)
自分にとっては30年ぶりの聖地上高地。上高地から涸沢までの小屋は、どこもきれいで立派な小屋になっていて驚く。ただ、昔の記憶がほとんど飛んでいるので、具体的にどう違うと言われると・・。あくまで印象レベルの話だ。当時の写真も実家のどこかに散逸して容易に見つけられない
今回の前穂北尾根は、私にはいささか背伸びしすぎたルートだった。若い頃に奥西縦走路をやった際に、ジャンダルムの直登コースを進んだが、これをいくつか繋ぎ合わせるくらいだろうと安易に考えて挑んだ。ところが、これがとんだ間違いだった。多くの方の山行記録を参考にし、それなりにルートは頭に入れていたつもりだったが、実際にその場に立つと、巻く方向は分かるものの、適切にルーファイできず、3峰ではとんでもないルート取りで危険を冒してしまった
3峰のチムニーを巻いてしまった岩壁では、どうにもこうにも身動きが取れず、古いスリング状の紐が錆びたハーケン3本に通されたものを掴んで攀じ登ったり、別の古いハーケンに指をかけて体を引っ張り上げたり、股下が谷底まで何もない岩と岩を目一杯足を広げて通過したり、今から思えばぞっとする。無事に通過できたことを天に感謝するばかりである
北尾根は岩稜の登攀がメインで、二の腕をフルに使って体を引っ張りあげたせいか、今回は足よりも二の腕の筋肉が痛い。でも久々に岩登りを堪能し、達成感に浸ることができた。もうしばらく岩はいいかなと思いつつも、早速図に乗って次は同じ「北」のつくあの尾根をぜひとも・・・と、次の夢を膨らませている。今期はもうシーズン終わりなので、来シーズン以降だな
参考までに以下に3000m峰26座の一覧を記した。30代、40代は山をやめていたので、ほとんどが20代と50代後半以降に集中している。50代以降の登頂は記録を追えるが、20代以前は初登頂が何才だったかも定かでなく、年代で記すことをお許し願いたい
それにしてもまたやってしまった。年寄りの冷や水である。30年ぶりに穂高に登るというのに、いきなり前穂の北尾根に挑んでしまった。もういい加減にこういう冷や水を止めなくては・・
3000m峰26座一覧表
なお、コースやタイムなど本山行の詳細については、以下の記録を参照されたし
山行1日目に戻る ☜ クリック
なお、この山行のコース概況、タイムなどの詳細は、以下の記録を参照されたし