計画に当たって
どうしてもやってみたかった岩稜がある。それが剱岳の八ツ峰だ。30年ぶりの北アへの復帰戦として59歳の時に前穂北尾根に登り、翌年の還暦で槍の北鎌尾根に登った。できれば剱の八ツ峰にもと欲を出して、61歳の時に懸垂下降の講習会に参加して技術を習得した
以来7シーズンにわたりチャンスを窺ってきたが、2年間の現役復帰とその直後のコロナ禍3シーズンもあって、なかなかチャンスに恵まれなかった。北尾根や北鎌尾根と異なるのは、アプローチの雪渓のコンディションに大きく影響を受けること
温暖化のせいで剱沢や長次郎谷の雪渓がシーズン本番前にひどい状態になってしまい、取り付きへのアプローチが大鬼門となって立ちはだかってきた。そうこうするうちに自らの体力やバランス感覚が落ちてきて、2年前にバリエーションルートの卒業を心に決めた。しかしながら、どうしても八ツ峰だけは諦めきれなかった
今シーズンこそ本当に最後と決めて、できなければ縁がなかったと諦めるつもりでいた。今シーズンの雪渓の状態は近年になくそこそこの状態を保っていたので天気予報とにらめっこ。7月28日の月曜からのスケジュールで予約を入れたものの、微妙に午後の天候が怪しくなった
技術も経験も乏しい高齢者の自分としては、雨に濡れた岩稜の登攀は避けたい。少しでもリスクを減らすべく、せめて天候のコンディションだけは完璧を期したかった。スタートを29日にずらして予約し直すも、流動する天気予報により最終的に30日からの決行を決断した
八ツ峰の概要
剱岳は北アルプス北部に連なる立山連峰の北端に位置する標高2,999 mの山。アプローチとしては一般登山道の別山尾根や早川尾根、バリエーションルートの源次郎尾根、北方稜線、八ツ峰の岩稜に加え、長次郎谷や平蔵谷の雪渓を登り詰めるルートなどがある

上の写真は別山北峰から眺めた剱岳(2024年8月撮影)。右側奥の尾根が八ツ峰でその手前の尾根が源次郎尾根、左側手前に伸びるのが別山尾根
八ツ峰は、前穂高岳の北尾根や槍ヶ岳の北鎌尾根とともに日本三大岩稜の一つになっている。北尾根と北鎌尾根と異なるのは、いくつもの岩峰を下る際にロープを使用する懸垂下降の技術を必要とすること。懸垂下降は、ビルの窓清掃を行う人が、ロープを使って屋上から下がっていくのと基本的に同じ技術だ
山行計画の概要
7月30日(水):晴れ
扇沢駅から立山黒部アルペンルートで室堂に入り、剱澤小屋に昼頃チェックイン。午後に八ツ峰下半の取付きであるI.Ⅱ峰間ルンゼの取付き状況を下見に行く(ルンゼとは、雪や水の浸食作用によってできた険しい壁の溝のような地形のこと。I峰とII峰の間にあるのでI.Ⅱ峰間ルンゼと呼ぶ)
7月31日(木):快晴
小屋を深夜に出立してI.Ⅱ峰間ルンゼに取り付く。ルンゼを標高差400mほど登り上げ、I.Ⅱのコルと呼ばれる稜線上の鞍部へ進み、II峰からVIII峰へと縦走し、最後に八ツ峰の頭と呼ばれるピークを越えて八ツ峰の縦走を終える。そこから北方稜線と呼ばれる稜線を経て剱岳山頂に至る
8月1日(金):快晴
小屋から室堂へと戻り下山する
なお、31日の八ツ峰アタック日は、状況に応じて下半(II峰からV峰)で終了とする、あるいは上半(VI峰から八ツ峰の頭)のみの縦走とするなど、臨機応変に計画を変更することとした
歩行ルート図と標高グラフ
2D歩行ルートと標高グラフ
最高点の標高: 2993 m
最低点の標高: 1967 m
累積標高(上り): 3495 m
累積標高(下り): -3508 m
3D歩行ルート動画
歩行ログをもとに、Google Earth Proで以下のごとく3D歩行ルートの動画を作成した。Google Earthの直近の画像は積雪期の画像なので、過去画像の中から時期が近い2018年7月19日の画像を選択して用いた。今ほど温暖化が酷くない2018年で、しかも7月中旬の画像のため、山行時よりも残雪が多く残っているので写真と違って見える点をご了解願いたい
カメラ高度は5000m、カメラ角度は50度、速度は60秒程度の再生時間になるよう設定している。なお、右下の3点リーダーからPlayback speedを変更できるので、好みで調整されたし
山行の詳細
1日目:入山および雪渓の下見

始発に乗って8:40分頃に室堂到着。強烈な日差しで室堂としては気温も高い

みくりが池の周りには残雪が多めに残っていた

雷鳥沢のテン場を見下ろす@雷鳥荘。重いザックであの尾根を越えていくのが辛い

別山尾根(べっさんおね)に登り上げると剱岳が目に飛び込んでくる@剱御前小舎(つるぎごぜんしょうしゃ)

源次郎尾根の背後に八ツ峰が見えている。富山県警山岳警備隊の剱沢派出所で情報取集。剱沢と長次郎谷(ちょうじろうたん、この地方では谷のことを「たん」と呼ぶ)の雪渓はほぼ問題なく通過可能とのこと。私にとっての鬼門が解消されてやれやれ。赤線が八ツ峰の下半のI.Ⅱ峰間ルンゼのルート。稜線に登り上げたところがI.Ⅱのコルで、そこから左方向へ峰々を越えていく

一つ上の写真の拡大図。赤線下部のI.Ⅱ峰間ルンゼ下部にある4つの雪のブロック(赤枠内)はいつ崩落してもおかしくないので要注意とのこと

剱澤小屋にチェックイン後、I.Ⅱ峰間ルンゼ取付きまで下見に行く。クロユリの滝の下から雪渓あり

雪渓の始まりのあたりは穴ぼこがある

夏道が成り行き的に雪渓に埋もれるところまで下ってから雪渓歩きに移った。雪渓歩きは涼しくていい。振り返って左が下りてきた剱沢の雪渓で右が平蔵谷(へいぞうたん)の雪渓。平蔵谷の右側の壁が源次郎尾根

昨年八ツ峰をやろうとして前日に下見に行った帰りに雨が降り出し、写真にある大きな滑り台のような濡れたスラブ岩を横切っているときに10mほど滑って雪渓と岩の間に挟まって止まった(笑)。肘にひどい擦り傷を負い八ツ峰を断念して翌日下山した

急斜面の先に長次郎谷の出合(であい)。出合にはソロの方と、さらに下方に二人が見える。今年はあそこまで快適に進める

こちらは昨年の長次郎谷出合の様子。クラックだらけのズタボロの上を雪面が落ちないように念じながら通過した(笑)

出合の下方の二人組は富山県警の山岳警備隊のお二人だった。この日に上半をやって長次郎谷を下ってきたところだった。上半は快適ながらも池ノ谷乗越からの下りは雪渓に亀裂が多く、懸垂したり源次郎尾根側をへつったりしたとのこと
ということは、上半をやったら雪渓を下りる選択は厳しいということ。上半をやり終えたら、北方稜線で剱岳本峰へと向かうしかなさそうだ

長次郎谷を登り詰める。写真奥の右手に目印の大きなスラブ岩とそのすぐ手前下に2つの岩小屋が見えてきた。あそこがI.Ⅱ峰間ルンゼの取付きになる

I.Ⅱ峰間ルンゼ少し下のクラックを通過して見下ろす。昨年はパックリ割れて源次郎尾根側の岩をへつって通過しなくてはならなかったが、今シーズンはまだ普通に通過できる

クラックの八ツ峰側には明瞭な割れ目が形成されつつある

クラックの源次郎側。この暑さが続けば、昨シーズンのように早晩クラックがパックリ割れるだろう

I.Ⅱ峰間ルンゼの取付き点。上部にI.Ⅱのコル(鞍部とも呼ばれ稜線が凹んだところ)の目印となる三角錐が見えている。下部には雪のブロックも見えている。問題はシュルンド(雪渓と斜面の間にできた空間)がでかく、雪渓からルンゼ斜面に移れないこと。雪渓を下りて斜面を登り返す強者もいるのだが、私には無理だな

大きなスラブ岩の先に雪渓から移れるところを発見。ここしかないか・・

ここで渡ったとしてどうやってI.Ⅱ峰間ルンゼのルートに戻るかが問題。岩の斜面を進めなければ、一旦、岩を下って雪と岩の間をへつりながら進むのか?

下見後モヤモヤとしながらクロユリの滝まで戻ってきた
2日目:八ツ峰アタック

本番当日。深夜1時半ごろに小屋を出た。I.Ⅱ峰間ルンゼの取付きから少し上、前日の下見のポイントの少し手前にもう一つ渡れるところを発見。写真の中央の白い部分を通って手前のルンゼ側に移ってきたところ。両横は大きな隙間

ところがI.Ⅱ峰間ルンゼ方面へトラバースできず、脆い岩壁で上部にもなかなか登れず。断念して渡ってきたポイントへと引き返す。雪渓と岩の間に挟まりたくないので慎重に下った(笑)

写真の奥の方へと進んでI.Ⅱ峰間ルンゼの取付きへ向かうのだが、約1時間半の格闘は徒労に終わり、下半を断念。明るくなってきて私の手に負える状態でないことを再認識。時間もロスしたので上半にターゲットを絞る。V.Ⅵ峰間ルンゼを目指して長次郎谷をさらに上へと進む

すぐに雪渓が割れ始めているポイントに当たる。この写真は前日の下見時に上から下りてきた女性3人組の様子。手前の女性のところまで下りて、アックスを打ち込みながら登り返した。その先の割れているところは左の岩を通過した

割れた個所を迂回した後の雪渓は概ね快適だった。V.Ⅵ峰間ルンゼ取付きの少し下で朝飯のパンを食べているとガイドさんとその客が通過。ガイドさんは先週も上半に入っていたそうで、V.Ⅵ峰間ルンゼの通過方法を教えてもらった。今回はVI峰のAフェースから上半に入るとのこと

V.Ⅵ峰間ルンゼの雪のブロックを避けて左側(VI峰側)を詰めていく

雪渓はいくつかに分断されていて、早晩崩落しそう

下半のゴールのV峰を眺める。下りるルートはしっかり頭にイメージできているが、残念無念

V.Ⅵのコルに着くと2人組の先行パーティが取付いたところだった。このお二人はどこから現れたのか?下半から来たのだろうか?やっぱり強者はいるんだ。常時ロープでつないで尺取り虫のような動きでスイスイ登って行った

V.Ⅵのコルからは三ノ窓側の斜面を赤線のルート取りで登るのが簡単

三ノ窓側の斜面を登り切れば、しばし一般登山道のような気を抜ける稜線歩き

別山(べっさん)と富士ノ折立(ふじのおりたて)の左稜線の左奥には槍穂も見える

槍穂のアップ、あちらもいい天気だ

奥には後立山連峰(うしろたてやまれんぽう)、通称後立(ごたて)の山並み

断念した下半の山並みを見下ろす。奥がⅠ峰でそのすぐ左手前がⅡ峰、さらにその右手前にⅢ峰とⅣ峰のピークが重なって見える。そしてその右前にⅤ峰。下半はI.Ⅱのコルまでの急斜面のルンゼ登りがきついが、その後は懸垂下降をしながらアップダウンを繰り返すもほぼ同じ標高を進む

VI峰とその先の光景。上半はピークごとにどんどん標高を上げていく。中央奥の左が八ツ峰の頭で、すぐ右の尖ったピークが三ノ窓の頭。まずは立ち位置のDフェースの頭とVI峰との間のコルへクライムダウン

Dフェースの頭からコルにクライムダウンした後のVI峰のルート取り。赤線の先端がVI峰からのクライムダウンポイント

Ⅵ峰山頂から剱岳本峰を見上げる(写真中央やや左)。まだまだ先は長い。右手前の稜線は北方稜線。八ツ峰を終えた後に通過していくラインだ

Ⅵ峰山頂の肩から少しクライムダウンすると懸垂下降の支点がある。岩に打ち込まれたハーケンは古いが、ロープは新しいのに付け替えられている。先端にはカラビナまで設置してあり、自分のロープの着脱がしやすくて助かる

コルへ懸垂下降中の私の影。後ろから小怪獣に狙われているような・・(笑)

次に登るVII峰の全景(VI峰頂上からの写真)。写真中央に先ほどの先行パーティが見える。このパーティの背中を見たのはここまで。どんどん先へ進んでいった。本来、ソロの私の方が尺取り虫のような動きをしなくて済むので早く進めるはずなのだが、彼らの登攀は驚くほどスムーズだった。特に先を行くリーダーの動きには全く迷いがなかった

赤線がVII峰登りルート取り。Ⅵ.Ⅶのコルから右方向に斜面をトラバースして進む巻道があるが、数メートルも進まないうちに稜線に取り付いてリッジ通しで登る。一部稜線の直下を巻いて復帰した

ザ・剱岳というような光景。剣先のようなピーク群が立ち並ぶ

天を突くような険しいピークが続く。まだまだ先だ

VII峰頂上から核心部VIII峰を眺める。写真中央やや右の双耳峰状のピークがVIII峰。手前のピークに登り上げたら、2-3メートル下って次のピークに登り返すとVIII峰の山頂

右手方向にはチンネ左稜線

VII峰ピークから三ノ窓側に僅かにクライムダウンして短くトラバースすると、VII峰ピーク直下に懸垂支点がある。ここも新しい支点

VIII峰の登り。ガリー(クラックのような岩の溝)を詰めていく

VIII峰のトラバースルートを数メートル進んで上に向かう。トラバースルートからはハイマツでガリーが見えずちょっと右往左往。思い切ってハイマツを進みガリーに出た(汗)。ただ、どこのガリーに出て登ったのか自分でも分からない
赤線がヤマケイのアドバンスガイドDVD「剱岳八ツ峰」で故谷口けいさんが登ったルート。これを目指して自分も同じガリーを登ったと思っているが、ひょっとすると自分は黄線のガリーを詰めたかもしれない。定かでなくてゴメンナサイ
どちらのルートも、この下にハイマツが生い茂っていて、トラバースルートがその下を通っている

VIII峰ピークから写真の中央右に八ツ峰の頭、すぐ左に池ノ谷乗越を挟んで池ノ谷の頭、写真左端に長次郎の頭を眺める

VIII峰ピークから八ツ峰の頭のルート取りを眺める。最初の部分がVIII峰の懸垂ルート(写真手前)に隠れて見えない

VIII峰と八ツ峰の頭のコルまで懸垂下降で下りてきた。写真中央下の岩の出っ張りを回り込むようにバンドの上を進み、その後ほぼ垂直方向に登っていく

垂直方向に登りながら少しづつ右へ右へとルートを取っていく。2つ前の写真の赤線では右斜めに斜上するようになっているが、感覚としてはほぼ垂直に登っていく感じ

八ツ峰の頭に到達。山頂から登ってきた峰々を眺める

赤線がVIII峰の懸垂ルート。最初の支点から岩を下って、一旦Vの字のように数mほど下る。その後、手前側に登り返し(破線)、さらに10mほど下降する。VIII峰頂上から一発で下りたが右側の長次郎谷側にちょっと振られた。ロープの回収も力を要した

写真上部がVの字のギャップ。赤線が登り返した後の懸垂。VIII峰の懸垂ルート上には支点が2つあるので2回に分けて下りるのが良い。振られないし、ロープの回収も容易。前日スライドした警備隊員の方も2回に分けることを推奨していた

上の写真は2023年8月に剱岳山頂から撮影したVIII峰の写真。中央がVIII峰山頂で、左方向に下るとVの字のような形状になっているのがよくわかると思う

右に剱岳本峰、左に立山連山

クレオパトラニードルを見下ろす

すぐ横にはチンネの頭

八ツ峰の頭で登ってきた峰々を眺め、感慨に耽るジジイ

体力、技術不足で時間が予定より1時間以上遅れている。これから進む北方稜線も厳しい(八ツ峰の頭からの眺め)。のんびりもしていられない

池ノ谷乗越(いけのたんのっこし)から北方稜線で長次郎の頭へ進む最初のルート取り

八ツ峰の頭からの懸垂下降2ピッチ。従来は池ノ谷ガリー方面に懸垂していたが、現在は池ノ谷乗越のすぐ手前に下りるルートがメイン。北方稜線の縦走者に落石させないため。設置されている2つの支点を使えば池ノ谷乗越付近に下りてくる

2つ前の写真の赤線の登りの斜面。池ノ谷乗越から撮影。よく見ると赤ペンキの丸印と矢印がある。写真中央を登っていく感じ

登り切ったピークから本峰へ続く稜線を眺める。北方稜線も厳しい。こちらもバリエーションルートなので、標識やペンキの印、リボン、鎖も梯子もない。自分でルート・ファインディングして進む
中央奥が剱岳山頂、そのすぐ右手前が長次郎の頭。長次郎の頭は左側を時計回りに巻いていったが、写真に写っている雪渓に巻道が阻まれており、途中から斜面を登って長次郎の頭を越えていく羽目になった

長次郎の頭を時計回りにトラバースして長次郎のコルを目指して進んでいるところ。このすぐ先で道が雪渓に覆われ、やむなく写真の右手斜面を登り返した
ヤマレコやヤマップの記録によく出てくる長次郎の頭のすぐ下にある岩棚状のトラバース路を目指したのだが、長次郎の頭の山頂にある懸垂下降支点にひょっこり出た

1ピッチ目はクライムダウンしたが。2ピッチ目は懸垂。これが今回最後の6本目の懸垂。八ツ峰の頭を懸垂した後、池ノ谷乗越でハーネスもロープもザックに片付けてしまったので、再度取り出して準備。トホホ・・
なお、写真には写っていないが、写真右側に白いお助けロープが1本垂れていた。長次郎の頭すぐ下の岩棚状のトラバース路を抜けてくるとお助けロープ側に出てくるようだ。お助けロープの状態や強度については不明
2ピッチ目の懸垂支点とお助けロープの支点はほぼ同じ高さで数メートル離れているだけだが、岩をへつって横移動することは危険でこわい。懸垂回避のためにお助けロープ側への移動をトライしてみたが、途中でやめて引きかえして素直に懸垂した

15時半に剱岳山頂に到着。誰もいない(笑)。剱澤小屋に電話して今から下りるので19時頃の到着になることを伝えた。ご迷惑かけます

八ツ峰と後方の後立の稜線がきれいだ。手前の八ツ峰の稜線で、写真中央あたりが大きく凹んでいる。そこが下半と上半を分けるV.Ⅵのコルだ。あそこから左手に稜線を登ってきた
凹みの左の長い斜面の先に2つのピークがある。一つ目がVI峰のDフェースの頭で二つ目がVI峰山頂。VI峰には下からAフェース、Bフェース、Cフェース、Dフェースの4つの岩壁があり(写真の雪渓の上にある岩壁)、アルパインクライマーに人気の壁。VI峰山頂からさらに左がVII峰で、写真の左端がVIII峰。八ツ峰の頭は写っていない

目算通り19時に剱澤小屋に到着。明るいうちに着けて良かった。玄関で靴を脱いでいると、小屋の御主人が「XXさん?お疲れさま。19時半に夕食を出しますから、まずシャワーを浴びてきてください」と涙が出るような温かいお言葉。何度も頭を下げて詫びつつお礼を申し上げた
ビールのロング缶2本では足らないかと思ったが、この夜は爆睡だった(笑)。年寄りは疲れたよ。最近多い「行動不能による救助要請」にならなくてよかった
3日目:室堂へ下山

翌朝はゆっくり6時半に出立。小屋はほとんど空っぽ(笑)。剱沢キャンプ場を抜けて剱御前小舎を目指す

剱御前小舎から八ツ峰にお別れ。今回が最後の挑戦と決めていたので、登らせてくれた山の神様に心から感謝

大好きな新室堂乗越のルートで雷鳥沢方面に向かって下りる

雲海の彼方に加賀の白山が浮かぶ

左側に浄土山と奥に龍王岳、右奥には通称「日本オートルート」と呼ばれる稜線

さらに広角にして左側に立山連山を入れて。雄山と浄土山のコルの奥に槍穂が見えている(写真中央やや左奥)

ちょうど一ノ越山荘の奥にくっきり見える

大日三山も美しい。富山湾は雲海の下

雷鳥沢キャンプ場から最後の苦しい登り返し。地獄谷の見えるベンチで一休み

室堂9:45発の電気バスに乗り、ロープウェイ、ケーブルカー、電気バスと乗り継いで下界へ下りる

観光放水に虹がかかる。今度この山域へ来るときは下の廊下だな

半年ぶりの山行は気持ちの良い3日間だった。とっても疲れたけど念願の八ツ峰を登ることができて爽快な気分。大町温泉郷の薬師の湯に浸かって安全運転で帰ろう

蛇足ながら実家近くの岩場の写真。15m強の垂直に近い壁で何度も練習を重ねてきた。尾張・美濃地方のあちこちから老若男女のクライマーが集う岩場。今後はここで懸垂下降を楽しむつもり
山行を終えて
「案ずるより産むが易し」と言ったらおこがましいだろうか・・。天候や雪渓などの諸条件に万全を期すため何度も実行を躊躇してきたが、終わってみればもっと早く果敢にやればよかったという印象だ。もちろん今回は暑いことを除けば最高の天候のコンディションだったので八ツ峰をできたのだが・・
ただ、比較的残雪が多い今シーズンでもI.Ⅱ峰間ルンゼの取付きは自分の手に負える状況ではなく、下半を断念せざるを得なかった。北尾根や北鎌尾根をやった時と比べて格段に体力は衰え、結果的に上半のみでも想定以上に手こずったので、下半からスタートできなかったのは山の神様のお導き、思し召しだったと思っている
68歳にして初めての実戦での懸垂下降は、実家近くの里山の岩場でしっかり練習したおかげで、スムーズにこなすことができた。垂直に近い15m強の岩壁で練習を積んできたので、ロープを落とせば地面まで届いたのだが、今回の実戦では山の斜面で引っ掛かり何度もロープさばきが必要になった。これもいい経験だった。もう実践で懸垂下降をすることはないけど・・
最後に、17時半からの夕食時間に2時間も遅れたにもかかわらず、対応していただいた剱澤小屋の方々には、この場をお借りして改めて心からお詫びとお礼を申し上げたい。18時半終了なのに19時到着時に「まずシャワーを浴びてきてください」とご配慮くださった小屋のご主人にはお礼の申し上げようもない
暑さの汗だけでなく、冷や汗など悪い汗も一杯掻いていたので、さっぱりして食事と睡眠をとることができたのはとてもありがたかった。一人で食事をしている際にもお話し相手をしていただき、本当にありがとうございました
今回をもってきっぱりとバリエーションルートを引退して、年相応の登山をポツポツと楽しんでいけたらと思っている。最後のチャンスを与えてくれた山の神様に心から感謝感謝!
最後に私のような年寄りができたからと言って、くれぐれも安易に足を踏み入れないでください。これまで私がやってきた前穂北尾根、北鎌尾根、北穂東陵、明神主稜、奥穂南稜などのバリエーションルートに比べて格段に難易度が高いルートです。最初は経験者と出かけることをお薦めします。老婆心ながらの余計なおせっかいかもしれませんが・・
だらだらと長い記録となったことをお詫びします
関連情報
アクセス
安曇野ICから扇沢まで
以下のサイトを参考まで(保護されていないサイト)
http://www.kurobe-dam.com/access/guide_car.html
扇沢の駐車場
駐車場の全体像は以下のサイトを参照
https://tozanguchi-p.com/post-442/
市営無料駐車場:170台/第1 + 60台/第2
有料駐車場350台:
第1/2駐車場(上段)1000円/12時間毎
第3/4駐車場(下段)1000円/24時間毎
市営無料第2駐車場の下側にも小さめの駐車場が数か所ある。土日祝は駐車場の争奪戦。相当早く到着しないと無料は駐車できず、有料も比較的早くに満車になる。道の所々にあるスノーシェッド前後などのわずかなスペースを探して駐車することになる(扇沢駅までは30-60分くらい歩くことになる)
当日は、市営無料第一駐車場は到着時満杯。最後の1台が駐車しているところだった。市営無料第二駐車場は9割程度埋まっていた。第二駐車場は第一駐車場から徒歩5分ほど下にある。扇沢駅まで徒歩15分弱
扇沢 → 室堂:立山黒部アルペンルート
Web予約で扇沢7時半始発を確保。往復¥12,300
窓口の隣にある発券機でQRコードをかざして受け取る。始発50分前から発券機オープン。
室堂には8:40に到着
https://www.alpen-route.com/webticket/
この時期の室堂からの帰り最終便は16:30。ハイシーズン以外は15:30。
帰りの便は指定できない
山小屋
2024年から剱澤小屋は「やまたん」でWeb予約するシステムに変わっている。
クレジットカード決済になったので、事前の銀行振り込みが不要になり便利。
https://www.yamatan.net/
一方、剱山荘も「やまたん」予約になったので、これまでのような急用や天候等による前日キャンセルがやりづらくなった
両小屋ともイーロン・マスクのスターリンクでwifi接続できるようになった
https://yamagoya-wi2.com/
2時間300円、24時間600円(auユーザーは無料。povoやUQ、その他は有料)
両小屋とも山小屋としては珍しくシャワーを利用できるのはありがたい
コンビニ
安曇野ICを下りてから扇沢までにメジャーなコンビニが3軒ある。セブン1軒、ファミマ2軒
日帰り温泉
今回は扇沢下山後に薬師の湯を利用。露天風呂の方が熱く、日焼けした肌に痛くて内風呂しか入れなかった(泣)
<室堂周辺>
みくりが池温泉:
9:00~16:00。1000円。地獄谷を源泉とする白く濁る硫黄の香りの100%掛け流しの湯。シャンプー、ソープあり
http://www.mikuri.com/spa.html(保護されていないサイト)
雷鳥荘:
11:00~20:00。1000円。地獄谷を源泉とする白く濁る硫黄の香りの100%掛け流しの湯(風呂の中の階段を上がった湯舟。下の湯舟は湧き水を沸かした湯)シャンプー、ソープあり
http://www.raichoso.com/sisetu.html(保護されていないサイト)
室堂山荘:
14:00~16:00。700円。温泉ではないが、立山連山を眺めながら湯ぶねに浸かれる。シャンプー、ソープあり
http://www.murodou.co.jp/tozan/tozan.htm(保護されていないサイト)
<大町温泉郷周辺>
湯けむり屋敷 薬師の湯:
7:00~21:00(最終入館20:30)。750円。TEL.050-3101-9679。長野県大町市平2811-41。扇沢から車で約15分
http://o-yakushinoyu.com/(保護されていないサイト)
葛温泉 高瀬館:
10:00~20:00。700円。TEL.0261-22-1446。長野県大町市大字平高瀬入2118‐13。扇沢から車で約20分、七倉山荘の手前
https://www.takasekan.com/hot-spring/
コース状況(私の主観です)
室堂⇔剱澤小屋は割愛して、要所のみ以下に記載。山行時点での状況のため、剱沢の富山県警山岳警備隊派出所で最新情報を確認の上、出かけて下さい(剱澤テンバの受付の隣り)
剱沢の雪渓:
夏道を進み雪で道が消えるところで雪渓に移る。長次郎谷の出合まではクラックもなく快適
長次郎谷の雪渓:
I.Ⅱ峰間ルンゼの取付きまでは問題なく行けた。取付きのすぐ下にクラックが形成され始めているので今後は要注意。I.Ⅱ峰間ルンゼを過ぎたあたりで雪面が大きくへこんでいる。この時点では下って登り返すことが可能だったが、今後は完全に割れると思われる。そのすぐ上には完全にパックリと穴が開いているので、源次郎側の岩を歩いて通過する
V.Ⅵ峰間ルンゼの取付きまでは雪の上を安定して歩けたが、その上はクラック多数とのこと。警備隊の方は池ノ谷乗越から下る際に上部のクラックで10mほど懸垂下降をしたとのこと
I.Ⅱ峰間ルンゼには今にも落ちてきそうな雪のブロックがルート上に残っている。V.Ⅵ峰間ルンゼにも雪のブロックが残っているので、こちらは向かって左側(VI峰側)を詰めていく
八ツ峰上半:
VI 峰/クライムダウン+懸垂下降1P
VII峰/懸垂下降1P+クライムダウン
VIII峰/懸垂下降1P(2回に分けた方が良い)
八ツ峰の頭/懸垂下降2P
長次郎の頭/クライムダウン+懸垂下降1P
ロープは40mの長さでギリギリ行ける。私のロープは50mだが、軽量化のため径7.1ミリのエーデルリッドのロープを使用。バックアップシステムはアラミドファイバー製のSterling rope / Hollow Block2の19インチ(48.2cm)を使用(7mm以上のメインロープに対応するプルージックコード)
支点構築のための捨て縄を3本持っていったが、上半のすべての支点は過去の比較的しっかりしたロープに今シーズンの新しいロープが加えられ(または取り替え)、カラビナが2枚つけてあった(安全環はない)。下りる方向に体重がかかるように支点が構築されており至れり尽くせり
VII峰とVIII峰には明瞭な巻道があり、間違ってトラバースルートを進むパーティが少なくない。両方ともコルから巻道を数メートル進んだあたりで取り付く。VIII峰のガリーは巻道からは見えない。ハイマツで上部が見えないところを登っていくとガリーがあるが、想定しているガリーかどうかを判断するのは簡単ではない
VIII峰の懸垂は、2回に分けて行うのがよい(警備隊も推奨)。私は1発でコルまで下りたが、長次郎谷側に振られたのとロープ回収に力を要した
八ツ峰の頭からの懸垂は、山頂に設置してある支点を使えば池ノ谷乗越に向かって自然とルート取りされるようになっている。20mほどで2つ目の支点が壁にあり、同じくそれを使えば池ノ谷乗越の数メートル下に下りられる。警備隊員からはこの支点を使うことを強く推奨された。以前の懸垂ルートでは落石させやすかったこと、落石を発生させると北方稜線の池ノ谷ガリーを通過する登山者を直撃する危険があるため
北方稜線:
池ノ谷乗越から急斜面を登る。よく見ると斜面に消えかかった赤ペンキの印がある。すぐ左のガリーは足元が崩れやすい上に手がかり足がかりがあまり良くない
長次郎の頭の少し下を時計回りに巻く道は途中で雪渓に隠れて行き詰まった。その上にあるはずの岩棚状のトラバースも見つけられなかった。結局、長次郎の頭に登って懸垂下降する羽目になった(1ピッチ目はクライムダウン、2ピッチ目は懸垂)
長次郎の頭の山頂から剱本峰に向かって左側方向へクライムダウンしていくと途中でお助けロープがあるが、お助けロープの強度等については不明。岩棚状のトラバース路を通ってくるとこのロープの斜め上に出てくるようだ。なお、お助けロープの支点と2ピッチ目の懸垂支点は、数メートル離れているだけだが、岩壁を伝っての横移動は危険
長次郎のコルから本峰へのビクトリーロードも迷いやすい。私は少し右寄りの岩壁を登ってしまいちょっと手こずった(私のルーファイ能力がないだけか・・)
別山尾根の下り:
カニの横這いの一足目の位置が2年前までと変わったような・・。気のせいか?足運びを示す赤ペンキが仰々しくなっていた。別山尾根は浮石が多いので絶対に落石させないこと。また登山者が多いので上からの落石にも注意
水:
合計3.3L運んで3L弱を消費
歩行タイム
<1日目山行> 歩行時間 7:14、休憩 0:58、合計 8:12
室堂 8:52 → 8:59 みくりが池 → 9:28 雷鳥沢キャンプ場 → 11:19 剱御前小舎 → 12:14 剱澤小屋 12:50 → 13:30 平蔵谷出合 → 13:38 長次郎谷出合 → 14:45 I.Ⅱ峰間ルンゼ取付き 15:00 → 15:17 長次郎出合 → 17:04 剱澤小屋(泊)
<2日目山行> 歩行時間 13:20、休憩 3:55、合計 17:15
剱澤小屋 1:42 → 2:37 平蔵谷出合 → 2:47 長次郎谷出合 → 3:40 I.Ⅱ峰間ルンゼ 5:10 → 6:20 V.Ⅵ峰間ルンゼの取付き 6:30 → 6:48 V.Ⅵのコル 7:15 → 8:03 VI峰 → 9:12 VII峰 → 10:40 VIII峰 → 11:40 八つ峰の頭 11:50 → 12:40 池ノ谷乗越 13:05 → 14:03 長次郎の頭 → 14:50 長次郎のコル 15:05 → 15:25 剱岳15:33 → 16:55 前剱 → 18:22 剱山 荘 18:30 → 18:57 剱澤小屋(泊)
<3日目山行> 歩行時間 2:39、休憩 0:16、合計 2:55
剱澤小屋 6:36 → 7:04 剱御前小舎 7:18 → 8:00 新室堂乗越 → 8:20 雷鳥沢キャンプ場 8:30 → 9:00 雷鳥荘 → 9:30 室堂
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