2020.10.23 11:50
鋸岳(のこぎりだけ)。ずっと喉に骨がひっかかったような存在だった。百高山をやる以上、いつかはやらないと、と思いつつここまで来てしまった山だ。
今シーズン中に出かけようと腹を括って、甲斐駒ヶ岳から鳳凰山へ抜ける山行の途中で鋸岳へ足を延ばす計画を立てていた。甲斐駒ヶ岳山頂から尾根伝いに進み、第2高点から鋸岳(第1高点)をピストンして避難小屋の六合石室で泊まり、翌朝に甲斐駒ヶ岳に戻って、鳳凰山への縦走を続ける計画を立てていた
3泊4日なので、天候が安定するのをずっと待っていたが、どうも難しそうだ。あきらめて計画を分割し、鋸岳を先行することにした。この山は鋸の歯のようにギザギザした岩稜が特徴で、勾配のきつい岩壁に架けられた長い鎖を上り下りしなくてはならない。少しでも雪がつけば危険極まりない
冒頭の写真は中央道のパーキングエリアから数年前の2月に撮影した写真。左は甲斐駒ヶ岳で、その右奥にギザギザと小ピークが連なる稜線が鋸岳。その名の通り、鋸の歯のような山容だ
写真の右から3分の1あたりある尖ったピークが鋸岳山頂。すぐ左側は小ギャップと呼ばれる難所で、その左に大ギャップと呼ばれる窪みが見える。甲斐駒ヶ岳から右方向に鋸岳へピストンする計画だったが、今回は日帰り可能な右端のピークから左方向にアクセスするルートを選んだ
この週は火曜と水曜が晴れの予報。直前の日曜と月曜が雨だったので、沢の渡渉を考えて2日目の晴れの水曜を選択した。結果は上々。水嵩も渡渉に支障なく、天候も終日晴れだった。そして何より正解だったのは、稜線の雪の状況
甲斐駒ヶ岳などあちこちの山で初冠雪したことは承知していたが、うっすら程度ですぐに消えるだろうと高を括っていた。ところが出かけてみれば、想定以上の積雪で驚いた。とても甲斐駒ヶ岳からアプローチできる状況ではなかった
まずは釜無川からのアプローチ。このアプローチ以外には、戸台からバスで北沢峠へ向かい、途中でバスを降りて鋸岳へアクセスする方法もある。こちらは、今年と昨年の7月に降った豪雨で南アルプススーパー林道が崖崩れに合い、まだ修復されておらず利用できない。戸台川を徒歩で遡上し、取り付きに向かうこともできるが、現在は豪雨によるダメージで入山できないルートだ
という訳で、現在アプローチに代替使用できるのは、釜無川からの林道になる。片道10キロ弱の長い林道歩きだが、実はこちらの林道も豪雨で損壊し、すんなりとは歩けない。後述するように、皆さん迂回路を四苦八苦しながら利用している状況だ
普通ならヘッデンを点けて暗いうちにできるだけ林道を歩き、時間を稼ぎたいところだ。ところが、林道の崩落個所が数か所あり、迂回路を探すために明るくなってから崩落個所を通過する必要がある。そのため6.5キロポイントの先から始まる崩落個所までのんびり歩いて時間調節。5kmポイント辺りで十分明るくなってきた
天気予報通り、絶好の天気になりそうだ。そしてこの先から崩落個所の通過が始まる
最初の崩落個所。林道が幅1mもないくらいに崩落している。でもここは今のところ難なく通過できる
二つ目の崩落個所。口の空いたコンクリートの構造物は林道の橋。フェンス沿いの林道の幅が狭くなって残っているものの、橋の左側は林道が消失している。右の林道をそのまま進み、橋の奥の水が流れ落ちているところを渡渉する。河原に下りて左手に進み、ピンクテープが枝に着けてあるポイントから攀じ登って林道に復帰する
ここが最大の崩落個所で、戸草沢が左から合流してくるところの林道が完全に消失している。河原へ下りて通過し、こちら側で崖を登って林道に復帰したところ。向こう側に残る林道のガードレール2本が痛々しい
他にもいくつか崩落個所を通過するのだが、河原に下りたり林道に戻ったりと忙しい。人それぞれに自分で判断して迂回しながら歩く。切りがないので省略し、林道ゲートから9.5キロ位の林道終点にある旧造林小屋に到着した写真。ここで小屋周辺の紅葉を愛でながら朝食休憩をとった
小屋からはピンクテープや木の幹に着けられた赤ペンキ、大きな石に着けられた黄色の丸印などを辿って、河原沿いの右側の樹林帯に小屋からのトレイルの大部分がある。時々、河原に下りて進んだ。先方で沢が左右に分かれているが、中央の林の前面にカラマツが立っている(手前ではなく奥の木)。このカラマツの左下に富士川の源流の標識がある。右側の樹林帯から、源流の標識近くまで来たら、沢に下りて真ん中のカラマツへ進む
これが富士川の源流の標識
これが源流。冷たくておいしい水だった。行きは水の消費が少なかったので、手ですくって三口ほど喉を潤した。帰りは500mlのペットボトルを一杯にした
源流から急斜面の登りになる。我慢して登ること約40分。標高差200mほど登り、横岳峠の尾根に上がった。でも、ここから次の三角点ピークまでは標高差600mの急登が待ち受ける
最初は比較的緩やかな尾根歩きだったが、すぐに急な登りに変わった。標高2400m辺りで雪が現れ始めたので、チェーンアイゼンという滑り止めを靴底に装着。雪はでたり無くなったりを繰り返したが、鋸岳の山頂までチェーンアイゼンを着けたまま進んだ。うっすらとした積雪だと高を括っていたが、想定していたより雪の量が多い
登っていると、眺望の効くポイントに何度か出た。右が南アルプスの女王と呼ばれる仙丈ケ岳。中央が北岳から奥の間ノ岳に続く天空の尾根。北岳は富士山に次ぐ標高第2位の山、間ノ岳は奥穂高岳と同じ高さで標高第3位の山だ。間を結ぶ尾根は3000mを越える稜線。左端に小さく見えるのがアサヨ峰。あそこに用があるので、天候が許せば今シーズン中に出かけたい
さらに登ると本日のゴール、鋸岳が現れた。こんなに雪がついているとは想定外だ
中央アルプスの稜線も冠雪している。三角点ピーク(2607m)の山頂から
中央アルプスの右奥には御嶽山。こちらも白くなっている
三角点ピークからは稜線通しで鋸岳へ進む。三角点ピークから一旦下って、一つ目のピークに登り返しているところから鋸岳を眺める
左側の八ヶ岳や奥秩父方面。甲府盆地に雲海。良い眺めだ
1つ目のピークからは、再び細い稜線を下って角兵衛沢ノ頭に登り返す。その奥に鋸岳のピークが見える
前日だろうか、二人の足跡がある。このトレースのおかげで、尾根伝いとは言え、どこを登るかルートファインディング(ルーファイ)する手間が省け、大いに助かった。特に三角点ピークからの藪漕ぎの下りは、足跡がなければ、危険な岩稜を直接下りていたと思う。写真の上の岩の間を攀じ登って角兵衛沢ノ頭へ抜けて行く
角兵衛沢ノ頭から下って角兵衛沢ノコルに下りる。コルからラスボス鋸岳のピークへ登り返す。最後が最も急な斜面だ
ピッケルなど持ってきてないので、雪から出ている灌木の枝を掴んで体を引っ張り上げる
三角点ピークの標高が2607m、鋸岳が2685m。標高差は80m足らずなのに、3回も下って登り返してを繰り返すので、全部の登り返しが長い。特にあと少しの山頂が遠い
鋸岳山頂に到達。やれやれ。2685m、百高山93座目
山頂からの眺め。手前のピークが鋸岳の第2高点。左奥が南アルプスの貴公子とも団十郎とも呼ばれる甲斐駒ヶ岳(百名山、百高山)。右側へ続く稜線の平らな部分が駒津峰。こちらも百高山。そのすぐ右奥(写真中央奥)に見えるのが、栗沢山からアサヨ峰の稜線。余談ながら、栗沢山は宇多田ヒカルが南アルプス天然水の最初のCMで登っていた山。右奥には北岳と間ノ岳(ともに百名山、百高山)。素晴らしい眺めだ
北岳と間ノ岳のアップ。間ノ岳の右奥に西農鳥岳の頭がのぞいている。この三つの山が白峰三山(しらねさんざん)と呼ばれる南アルプス北部を代表する稜線
その右手に目をやると、南アルプスのへそのような位置にある塩見岳(しおみだけ)。百名山かつ百高山
さらに右手に行くと仙丈ケ岳。こちらも百名山で百高山。たおやかで優美な山容がいかにも女王と呼ばれるにふさわしい
さて、下山の前に自撮り。逆光にならないよう可動式の山頂標を動かして撮影(笑)。バックには槍ヶ岳から穂高連峰の稜線、立山連山と剱岳、後立山連峰なども見えていた。さぁ、戻るとしよう
三角点ピークへ引き返す。3回の下って登り返してが待っている
角兵衛沢ノコルに向けて下る。雪の下りは速い(笑)。でも滑落しないように慎重に
一気に横岳峠まで下りてきた。ここで小休止。樹間から見える岩壁がすごい
富士川源流でペットボトルを満たし、小屋まで下りてきて休憩。どう計算しても明るいうちに車までたどり着けそうにない。帰りもヘッデンで林道歩きだなと覚悟
山肌は紅葉の始まり。もう少しすると綺麗だろうな。でもその頃には、鋸岳には簡単には登れないだろう
何度も崩落地点を迂回して長い林道を歩く。登っているときは気が付かないが、結構な傾斜だ。下り坂なのでスピードを出しやすい。この後、ゲートまであと1キロというあたりでヘッデンを点けた
工事関係者の車が追い抜きざまに乗っていくかと声をかけてくれた。でも、ゲートまで300mか400mくらい。お礼を言って丁重にお断りした。3-4km手前で来てほしかったな・・・
釜無川からのアプローチの最大の懸念は、長い林道歩きと数多の崩落個所の迂回。自分の脚力で日帰りできるのか悩んだ。ログハウスでテン泊することも考えたが、直近の槍ヶ岳や、赤岩岳・赤沢山の山行で、同じような長いアプローチと急登をやっていたので、日帰りに挑戦することにした
結果は、行きも帰りもヘッデン使用で、何とかギリギリ日帰りでき、「やれやれ」といったところ。特に三角点ピークから鋸岳への雪がついた稜線は、先人がつけてくれたトレースでルーファイに時間を割くことなくピストンでき、本当にありがたかった。このトレースが無かったら、帰りはログハウス辺りからヘッデン歩きだっただろう
百高山を優先した今シーズンの山。コロナで半年停滞したものの、93座まで順調に伸ばすことができた。今シーズンの残る計画は甲斐駒から鳳凰への縦走。今シーズン中に百高山をあと2つを増やしたい。あまり積雪が進まないうちに2泊3日の安定した天候が来ることを願うばかり。まぁ、ダメなら来シーズンという気持ちでいるので、無理はしないつもり
「60代、男性、ソロ」、遭難事故が一番多い条件にドンピシャリ。安全登山を心がけて・・・、と自分自身に言い聞かせている
なお、今回の山行のコースやタイムなどの詳細については、以下のヤマレコの記録を参照されたし
山行記録: 鋸岳。上部は想定以上に積雪 ☜ ヤマレコの記録