南ア 白峰南嶺 北部周回(2020/09/14-15)

山の記録

2020.09.17 15:25

ここ2週間ほど連続した台風とその後の秋雨前線の影響で、しばらく山の天気予報が微妙だった。稜線でガスにずっと覆われたり、ましてや雨に降られるのはひどく気分が落ち込む。せっかく出かけるなら吹き渡るさわやかな風と眺望を楽しみたい。というわけで、山には出かけずじまいだったが、北アの小屋のブログを見ると天候はさほど悪くなく、まずまずの天気がずっと続いていたようだ。

確かに午後からガスったり、一時的に小雨がパラついたりしたようだが、山の基本である早出早着を心がければ、午前中を中心に稜線歩きを楽しめ、午後は小屋でのんびりアルコールと読書にし、天候が回復する夕方には夕日の絶景を楽しむことができたようだ。そんな後悔から、「晴れ/曇り」程度の予報なら思い切って出かけることにした

今回は久しぶりの南アルプス。今年の南アルプスは、大雨による登山口へのアクセス道路の損壊や登山道そのものの崩落、そこにCovid-19が加わり小屋の営業を見送ったり、閉山にした山域が多い。そんな中で、今回出かけたのは白峰南嶺(しらねなんれい)という山域。白峰南嶺とは標高第2位の北岳、第3位の間ノ岳(あいのだけ)、さらに農鳥岳(のうとりだけ)と続く白峰三山(しらねさんざん)の南に続く稜線だ

白峰三山は南アでも屈指の人気コースなのだが、今年はこの山域は入山禁止となった。白峰三山には6年前の50代後半に出かけたが、その時に先に続く白峰南嶺の稜線が気持ちよさそうに見え、いつか出かけたいと思っていたコースだ。さらに今回の南嶺には、私にとって未踏の3つの百高山もあり、一石三鳥みたいな山行になる

この周回ルートは結構タフで日帰り周回はかなりきつい。元々の計画は、大門沢コースを登りに使い、農鳥岳を越えて農鳥小屋に宿泊し、翌日に南嶺の稜線を歩き、笹山ダイレクト尾根を下る構想だった。今年は農鳥小屋が営業をやめたので、逆回りに変更して下山の途中にある大門沢小屋の避難小屋を利用して、1泊2日で歩くことにした。大門沢小屋も今シーズン営業中止だが、避難小屋や水場、トイレなどは登山者に開放してくれている。本当にありがたい

冒頭写真は笹山北峰2733m。通称、黒河内岳(くろごうちだけ)と呼ばれる山頂での写真。この山も百高山の一つ。右奥には百名山/百高山の塩見岳(しおみだけ)、私と山頂標の背後には塩見岳から蝙蝠岳(こうもりだけ、百高山)に続く蝙蝠尾根、左端には百名山/百高山の悪沢岳(わるさわだけ)を擁する荒川三山が見える

まずは登山スタート口の山梨県早川町にある奈良田温泉の吊橋から。夜中の11時半ごろに自宅を出発して奈良田温泉には深夜の2時半頃に到着。準備をして3時過ぎにこの橋を渡った。ヘッドランプの明かりが届く範囲しか見えず、高度差も長さも分からないので、吊橋につきものの不安や恐怖はほとんど感じない。揺れも驚くほど少なかった。ただ、一番手で渡ったので、いくつもの蜘蛛の巣が腕に引っ掛かった

標高800mの登山口から約800mを黙々と登ってきて、標高1603mの水場入口に到着。およそ3時間。途中真っ暗な中で道迷いしたことを考えれば、悪くないペースだ。このポイントに計画した通りのペースで到達できたことから、予定する避難小屋まで到達できると判断。また、思ったより水の消費が少ないことから、往復20分の水場には行かず、手持ちの3Lで進むことにした

この先には避難小屋まで水場はない。万一、途中で力尽きれば、稜線のどこかで簡易テントを張ってビバークすることになる。それを考えれば水を1-2Lは追加したいところだが、重量が1-2キロ増えることになり、ここから4時間続く急登には大変なアルバイトを強いられる。ただでさえ、寝袋、ガスコンロ、食材など荷物は重たい。万一に備える水の追加は、かえって機動力を落として万一のシチュエーションに自らを追い込む可能性もある。迷いが生じる大きな決断だ

南プスあるあるの樹林帯。山頂直下まで延々と見通しの効かない樹林帯を歩くのは南プスの洗礼の一つ。その樹林帯も最初の頃の杉からいつしかダケカンバの落葉樹に変わってきた。ただ、天気予報と異なり、朝からガスが立ち込め、木々の間からさえ眺望はない

笹山南峰への我慢の急登を続ける。笹山ダイレクト尾根とはよく名付けたものだ。水場入口から約4時間かけてさらに標高1100mを上げる。登山口からは約2700mの笹山南峰まで合計1900mの標高差を約7時間で登り詰める。しかも樹林帯の中を黙々と。樹林帯はいつしか針葉樹の森に変わっていた。シラビソの木だろうか

この先の標高2300mくらいのところで、私よりご年配の方に追いつかれる。歩き慣れている方のようで、私と同じコースを日帰り周回されるとのこと。会話の後、あっという間に後姿が見えなくなった

荷物を日帰り用の軽装にしたら、私も周回できただろうか?最後にヘッデンを点けて暗い林道歩きをして駐車場へ向かえばできそうではある。重い装備で1日半のゆとりの行程にするか、軽い荷物で無理して1日で歩くか、これも難しい選択だ。まぁ、今回は自分が立てた避難小屋を使う計画がベストと言い聞かせて腹を据える

計画通り7時間で笹山南峰に到着。朝の10時だ。これなら避難小屋までたどり着けそうだと確信した瞬間。この山頂、私の頭がそうなりつつあるてっぺん禿げのような山頂だ。苦労して登ってきた割には、眺望はさほどない

写真の右手前に2-3張りの幕営跡があった。木々に囲まれていて風に吹きさらされることはなさそうで、テン泊適地と言えばそうなのだが、本来は国立公園内なのでどうなのだろうか。まぁ、自分も体力尽きれば、ここか先でツエルト(簡易テント)を張ることになるのだから、非常時のビバークということで大目にみてもらうしかない

上空の雲は無くなったが、ガスが次々と湧き上がり、これから向かう方面の山々がまだよく見えない。休憩の後、一つ目の目的の笹山北峰に向かう。一旦樹林帯に潜り込んで進み、その後に岩のゴーロ帯を進んで北峰のピークに出る

冒頭の写真。笹山北峰(別名、黒河内岳)、2733m。私にとって百高山85座目。この山頂からは南プスの山々が見渡せる。やっと登ってきた急登が報われる

悪沢岳を主峰とする荒川三山が奥に聳える。左奥には上河内岳が見える。南プスには「XX河内岳」というのが多くある。なぜかは知らないが・・。手前は蝙蝠岳から徳右衛門岳へと続く尾根。自分はたぶん踏み込まないな。かなりマニアックな尾根だ

右奥の塩見岳から左の蝙蝠岳に続く稜線。あの稜線と蝙蝠岳から眺める南プスの山々も素晴らしかった。あちらの尾根は今シーズン入山規制されている。ぜひいつか再訪したい

奥に中央アルプスの主稜線が見える。手前は塩見岳から仙丈ケ岳へと続く仙塩尾根だ。仙塩尾根も気持ちの良い尾根だった。こちらも今シーズンはクローズ。入口と出口か異なるので、車の回収が難儀だが、ぜひ再訪したい尾根だ

残念なのは反対側。雲が低く湧き続け、奥秩父や八ヶ岳、富士山などは隠れて見えない

次のピーク、白河内岳(しろごうちだけ)を目指す。マメノキやウラシマツツジなどの草紅葉が始まっている

白河内岳、2813m。山頂標の黒ペンキが剥がれて、白河内岳の文字が読みずらい。この山は標高は十分高いのだが、百高山にはリストされていない。これより低い、笹山北峰やこれから向かう大籠岳(おおかごだけ)は百高山になっている。こういう事例は他の山域でも見られる。いつも選定基準に首をかしげる

ちなみに山頂標に「特殊東海製紙 社有林」とある。南プスの多くの山は、この製紙会社が保有しており、山を管理するための子会社の「東海フォレスト」が運営するマイクロバスや山小屋も多い。昔は南アルプスと言えば、アクセスが悪く小屋も少ないことで、玄人好みの山域だったが、東海フォレストの整備のおかげで、小屋は新しくなって数も増え、入山しやすくなった

次の大籠岳へ向かう。何度か下って登り返すが、白河内岳より先にある大籠岳のほうが低いのが分かる(中央やや右のピーク)

大籠岳、2767m。今回の二つ目の目的、百高山86座目。こちらの山頂標は大籠岳と知っていないと読めないほど薄れている。背後は富士山方面だが、相変わらず雲で隠れている。比較的アップダウンが緩やかなのに、各山頂でのんびりしていたら、徐々に計画より遅れてきた。焦り始める

縦走最後のピーク、広河内岳(ひろごうちだけ)。大籠岳から少し下って200mほど登り返す。山頂標は肉眼でずっと見えているが、この登り返しが足に来る。時間が気になりラストの頑張り

最後の目的の広河内岳、2895m、百高山87座目。背後の右端に白峰三山の南端にある農鳥岳が見える。この時点で午後2時半。計画より1時間半ビハインド。ここからコースタイムで避難小屋まで2時間半。明るいうちに到着できるか不安になる。余裕があったら、大門沢の下降点に荷物をデポして、空身で農鳥岳をピストンしようと思っていたが、心も体も時間も余裕がなくなった

大門沢下降点の目印まで下りてきた。ここから大門沢小屋まで悪路の劇下りが始まる。午後3時、下降スタート。5時半までには着けるかな

大門沢が見えるところまで下りてきて振り返った写真。1時間半経過。6年前の50代後半には、小屋まで1時間半で下りられたんだけどな。数年前から膝を痛め、バランス感覚も衰え、岩の大きな段差の下りはスピードが出せなくなった

それにしても大門沢も写真左側の崩落が激しい。樹林と崖の境の崩落ぎりぎりの上部を通過する部分もあった。ごく普通に歩けば危険はないが、そこそこ気持ち悪い

やれやれ、明るいうちに大門沢小屋の避難小屋棟についた。午後5時20分。結局2時間20分を要した。これが今の自分にとって精一杯。小屋は期待通り貸し切り。中は広く、2mのソーシャルディスタンスを取りながら、10人程度が横になれるくらいの大きさに私ひとり

小屋の正面から富士山が見えた。稜線からはずっと雲に隠れて見えなかったのに、最後のご褒美

富士山のアップ。荷物を置いて、小屋下の沢に下り、全身の汗をぬぐって全て着替えた。シャンプーや石鹸はないけど、随分とさっぱりし、生き返った心地だ

水場が利用できるのがありがたい。早速水を汲んで、夕飯づくり。まずは持参した焼酎とつまみで寛ぐ。アルコールが回ると、疲れがドット出て、食事もそこそこに寝袋に入り、電気を消して寝ることに

ここで事件。2-3時間、眠っただろうか。頭がモソモソする。虫かと思って手で払いのけると、ネズミのような鳴き声がする。LEDランプを着けたものの、眠たくて調べる気にもならずそのまま寝たが、二度と安眠を妨げにはこなかった

実は大門沢小屋には、ヤマネが出る。数年前だったか、宿泊した登山者が枕元に翌朝用のおにぎりを置いておいたら、かじられたとのこと。小屋のご主人が「ヤマネが時々現れるのでその仕業だろう」というやり取りをネットで見ていたので、食材についてはZiplocでしっかり封をしてザックに仕舞い込み用心していたのだが、まさか自分の頭をモソモソされるとは・・

ネズミかもと思ったが、翌日ネットで鳴き声を音声確認したらヤマネに間違いない。小さい電気をつけただけで、二度と出てこない臆病さからもヤマネと思われる。ネズミなら電気をつけようが、またチョロチョロしただろう

翌朝は山を3-4時間下るだけなので、ゆっくり朝食を取って出立した

何度か大雨でダメージを受けた橋を渡る。斜めった橋を進み、途中から左方向に細い木を渡って渡渉する。写真中央の横木と橋の先端部分に同じような横木があった。落ちても浅そうな先の横木を使った。橋の渡渉は3回ほどある。石や岩の上の渡渉も数回

しばらくは沢沿いに渡渉を繰り返し、岸の岩の上を歩いたが、途中から沢と離れて高巻するように進む、高巻の最高点を過ぎると、登山道は一転して里山のような歩きやすい土の道に変わる。カエデなどの落葉樹の森の中を抜ける。紅葉したらさぞかし綺麗だろうな

釣り人(写真中央)の世界まで下ってきた。登山道もあと少し

ダム取水口にかかる吊橋。これは結構揺れる

護岸工事エリアまでやってきた。この橋は通せんぼ。登山者は下って橋の下を潜り抜ける

石の上を渡渉できそうなところを選んで対岸へ。さっきの立派な橋を渡った先の道路に復帰する

登山道はすぐに林道から外れて、この揺れない吊橋を渡る

アスファルトの林道歩きは約4キロ。半分ほど歩いてゲートまで来た。5-6台の駐車スペースがある。ここのスペースは激戦だな。ダメもとで来てみて、ダメなら奈良田温泉に戻り2キロ歩いてくればいい

ゲートを過ぎると、すぐに奈良田と広河原を結ぶ道路に出る。護岸修復工事のダンプカーが頻繁に通る。工事の交通整理のおじさんがポイントポイントで立っている。駐車場まで左側を歩くように指示された

奈良田温泉まで戻ってきた。前日の早朝に渡った吊橋が見えてきた。結構長かったんだ

一応、明るいときの写真も撮っておく。こんなに長いのにあまり揺れなかった。この取り付きから道路の反対側に10台ほどの無料駐車スペースがあり、私はここを利用した。駐車場についたのは、朝10時を回ったところ。ここから車で1分のところにある、奈良田の里温泉に向かう。アルカリ泉でヌルヌルして気持ちいい。温度も少し低めで登山後には入りやすい

今回の白峰南嶺、標高差のあるタフなコースだ。前夜、荷造りした後に、やっぱりやめようかと悩んだ。笹山ダイレクト尾根とはよく名付けたもので、まさにその名の通りの急登。ここをツェルト泊装備を担いで上がれるかが最大の迷いだった。かといって、軽装にしても日帰り周回できるか不安

本音でいえば、逆回りして大門沢ルートを登りで使う方が下りよりも楽なように思う。一方、笹山ダイレクト尾根は、登山道は急ながらも比較的歩きやすいことから、下りで使った方が楽ではないかと思う。

来シーズンに農鳥小屋が営業するのを待とうか最後まで迷ったあげくに、避難小屋を利用するダイレクト尾根からの周回に向かった

山頂直下までの長い樹林帯歩きや1900mという標高差(甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根の2200mよりはまし)、北アとはレベルの違う登山道の手入れ具合など、久しぶりに南プスの洗礼を受けたが、結果は何とか計画通りに周回することができ、今は達成感に満ちている

百高山ハント、残っているのは簡単に登らせてもらえない、あるいはアクセスしづらい山が少なくない。まずは、手を付けやすい山からクリアしていきたい。今シーズン中にカウントダウンできるところまで到達できたらと画策している

なお、登山ルートやタイムなどの詳細については、以下のヤマレコの記録を参照されたし

山行記録: 白峰南嶺(北部周回)。久々に南プスの洗礼を受けた ☜ ヤマレコの記録

タイトルとURLをコピーしました