木曽駒ヶ岳。クラシックルートから(2020/03/12-13)

山の記録

2020.03.14 10:01

実家と自宅を頻繁に行ったり来たりの生活。実家には80代半ばの母親がいる。私が例のウィルスに罹患しようものなら、母親の重症化のリスクは高い。という訳で山を控えていたが、2週間たっても終息の気配どころか拡大が続き、首相からは10日間の延長要請


テレワークなどごく一部に限られ、中小企業じゃインフラがない。大企業でも内勤の事務職はともあれ、研究所や製造現場などは出勤せざるを得ない。中国のような徹底した対策など、余程のことがない限りこの国では取ることができず、長期化は避けられないのだろう


ならば、万一の感染、拡散リスクを最小限にしつつ、山に出かけるしかない。九州の百名山ツアーは来年に延期し、近場で登山者の少なさそうな山に出かけることに。真っ先に浮かんだのが御嶽。直近2年間に3回積雪期に出かけたが、3回とも誰にも会っていない


同様にロープウェイの支柱台座に見つかった不具合で、無期限運休中の木曽駒ヶ岳も穴場と想定し、桂小場からのクラシックルートで計画。私には日帰りはきついので、冬期開放されている西駒山荘の石室を利用して1泊2日で出かけることにした。さらに平日なので、小屋は独占と想定し、接触リスクは極めて小さいと判断

冒頭の写真は、木曽駒ヶ岳に続く稜線の中で最も美しいと言われるアプローチ。左下から写真中央へ続く尾根を通り、そこから奥へ標高を上げて、最後に右斜後方へ進むとゴールの木曽駒ヶ岳。今回のメインディッシュともいうべきルートだ


途中の樹林帯でスライドしたソロの男女2名の方は、口をそろえて素晴らしい稜線歩きが楽しめると話していた。この稜線なら間違いなくそうでしょうね。この尾根を往復する2日目への期待が大きく膨らむ

まずは尾張の実家を5時に出発して、トイレ休憩に立ち寄った駒ケ根SA。背後の中央アルプスが美しい。赤い屋根の尖がりの上部が駒ケ根ロープウェイで上がる千畳敷カール。冬でも登山者や観光客に人気の場所だ。今は普段の喧騒とは無縁の静寂さを保っている。今回は右端の尾根の1本奥にある尾根を歩いて木曽駒ヶ岳を目指す

駒ケ根SAのすぐ隣にある小黒川SAのスマートインターを使って高速を出る。そこから小黒川渓谷キャンプ場までは車で10分。キャンプ場の奥で林道は冬期閉鎖。このゲートの手間に10台ほどの駐車スペースがある。7時ごろに到着

林道を歩くこと30分。桂小場の登山口に到着。東屋の奥を右に入るのだが、ボーっと歩いていて林道を少し先まで進んでしまう。小屋泊装備の約20キロのザックが重い。ここまでですでに汗が滴る。相変わらずだ

登山道からしばらく上がると「ぶどうの泉」の水場。冷たくておいしい。なぜこの名前かはわからない

里山のような気持ちの良い登山道を徐々に上げていくと、左手に真っ白な稜線が見えてきた。鞍部(へこんだ部分)に小屋が見える。今宵のお宿の西駒山荘のようだ。冬期小屋として一部が開放されている。それにしても随分と遠いな・・

さらに登ると「野田場」の水場。ここもベンチがある。ここまでは水が調達できるので、下から担ぎ上げる必要はない。この先には水場はない(雪の下)。最小限の水をここで確保して、あとは雪を溶かして水を作る

大樽小屋に到着。小さいがきれいな小屋だ(5名程度が横になれる)。ここまでツボ足(登山靴のみ)で登ってきた。ここからは雪が深くなるが、先行者2名の足跡があり、ある程度のトレースができているので、ラッセルはなさそうだ。足が沈むことはないと判断してワカンではなく12本爪のアイゼンを装着

胸突八丁という名の通り、長い樹林帯の登りが続く。所々で踏み抜いて膝上まで沈む。さらにザックに括りつけたピッケルに枝が引っ掛かる。顔や上半身にも枝が当たりうるさい。我慢の登りが続く


この途中で昨日入られたソロの男性とスライドした。聞けば、西駒山荘の扉が凍って開かず、強風の中、小屋の周辺でテント泊したとのこと。朝の時点でも開かなかったとのこと。2年前の御嶽の悪夢が蘇る。あの時も2月の厳冬期に五ノ池山荘の冬期避難小屋スペースで泊まるつもりだったが、扉が凍っていて開けることができず、そのまま下山した


この後に、日帰り登山のソロの女性とスライド。小屋のことを尋ねるも小屋には下りなかったので状況が分からないとのこと。不安がどんどん大きくなる。気もそぞろでお二人にはトレースを作っていただいたことへのお礼を言うのを忘れてしまった。この場を借りてお礼申し上げます

やれやれ。稜線に出た。素晴らしい!左から中央へ延びる稜線が明日歩く予定の稜線。小屋に入ることができればの話だが・・

中央が将棊頭山(しょうぎかしらやま)。あの向こうに少し下ったところに今宵の宿の西駒山荘がある。扉があくか確かめに行く。ダメなら木曽駒を諦め、大樽小屋に下山して泊まる覚悟を決める

サンゴ礁のような霧氷。因みに霧氷は風上(風が吹きつける方向)に向かって成長する

霧氷の木々が美しい。後方の下に伊那の街が見える

青い空にシュカブラ(風紋)が映える。稜線は風が吹きつけるので、雪が固く締まっていてアイゼンの爪が良く効く

将棊頭山。2730m。百高山、節目の80座目。風もなく暖かいので、ジャケットも帽子もなし。この日は典型的な春山

冒頭の写真。期待は膨らめども不安は募る。眼下の小屋に急ごう

その前に南アルプスが美しい。荒川三山(中央と左)と小赤石岳から赤石岳への稜線(右)

農鳥岳の右に富士山も。南アの2800m程の山が続く白峰南稜越しでは、富士山も頭だけ

西駒山荘。後方の左上のピークが将棊頭山。夕暮れ時に撮影した写真。手前の石室の南側入り口は軒先まで雪で埋まっている

窓ガラスは出ているが、窓の下部に雪と氷が張り付いていた。丁寧に取り除き、サッシと枠の隙間にストックの先を入れて梃子のようにすると、いとも簡単に開き拍子抜けした。昨日は気温が低く今朝も動かなかったのだろう。今日は風もなく、気温も上がったので運が良かったとしか言いようがない

窓から内部に入るも年のせいで体が硬く四苦八苦。182㎝、72キロの私の体で何とかすり抜けられるが、体の大きい方は苦労するかも・・。窓の下の木枠は踏み台にちょうど良いのだが、立て掛けてあるだけなので不用意に体重をかけると動くので要注意!

サッシが完全に締まっていないので(冬期開放のため、鍵をかけないため)、隙間から雪が入り込み、ご覧の通り。こちら側の板の間はちょっと使えない。真ん中の通路の反対側の板の間は問題なし。5人は寝れる十分な広さ

出入りする窓ガラスの対面にもどこからか入り込んだ雪で、まるで霜がびっしりついた冷凍庫の中のよう。想定通り独占かと思ったが、この後にカップル1組がやってきて3人になった

カップルは外にツエルト(簡易テント)を張ったが、寒くなり小屋へ移動してきた。正解だな。この日の夜の風ではツエルトではとても寝られたものではない

カップルの引越しが終わったころ、トワイライトタイム。小屋の窓から出たところからの北アの眺め

槍ヶ岳から穂高連峰のアップ。この時点では風もなくさほど寒くない

北アと反対側に見える南アルプス。中央アルプスはその名の通り、真ん中にある。左から北岳(標高No2)、間ノ岳(奥穂と並んでNo3)、農鳥岳の白峰三山(しらねさんざん)。農鳥の横に富士山の頭

翌朝5時半に小屋を出る。南プス方面の黎明。昨夜はうまく寝付かれなかったが、体の疲れは随分取れた。実は小屋を出て最終準備をしているときに、外手袋を外した。その瞬間に手袋が風に飛ばされてしまった。まだ暗かったのでヘッドランプを点けて探し回った。50mほど斜面を下ったところに奇跡的に手袋が転がって止まっていた。内手袋だけでは凍傷になってしまうので、山を下りるしかない。手袋が見つかったのは窓ガラスに続いてラッキーとしか言いようがない

南アルプスの端にある鋸岳からご来光。予報通り雲が少し出ている。右の尖がりは甲斐駒ヶ岳2966m。男性的な山容から、通称、南プスの貴公子とか団十郎とか呼ばれる

雲があるせいか、ご来光が今一つ力不足でモルゲンロートに染まらない。残念!

まずは8合目への稜線へと進む。風が強く、息が長い。先が思いやられる

息の長い強風をやり過ごすため、何度も耐風姿勢を余儀なくされ、なかなか思うように進めない。8合目から先の2779m峰の稜線に進む。あの手の稜線で強風に煽られてバランスを崩すと、滑落の危険が増す。両側はどこまでも落ちていくので、大怪我では済まない


結局、2足歩行は風で体を持っていかれそうになるリスクが高く、ダガーポジション(ピッケルのピックという尖った部分を雪面に差しながら這うように進む)という姿勢で風の抵抗を最小限にするように進んだ

馬ノ背から先のピーク。雪煙がすごい。風の強さが見て取れる。引き返した方が良いのだろうなと思いつつ、先へ進んでしまう

本来はビクトリーロードなんだろうけど、この日は後悔ロード。ここまで頑張って来てしまって、帰りは大丈夫か・・?すでに心は帰りの心配


ここでまたもやハプニング。フリースの帽子の上からヘッドランプを装着していたのだが、強い風に煽られ続けて帽子が次第にズレはじめ、一瞬の風に飛ばされてしまった。ヘッデンは2mほど横に転がったが、帽子はもっと先に持っていかれてしまった

ネックウォーマーの片方のひもを縛れば、帽子の代用にはなるかと一瞬考えたりしたが、すぐさまヘッデンを拾って帽子の後を追う。つむじ風で巻き上げられ、自分の周りを左右前後に動き回る

そして三度目の奇跡というか幸運。帽子の不規則な動きを追っていると、帽子が風で私の足元に飛んできた。すかさず掴んで取り戻す。何とこんなことがあるもんだ

山頂到着。全国に「〇〇駒ケ岳」は多々あるが、盟主との自負か、「木曽」の文字はない

標識の裏側。中アの最高地点。三度目、でも約35年ぶり。積雪期は2回目。あと1回は初夏に北御所登山口からロープウェイを横目に見ながら歩いて登った

ここまで到達すると中アの稜線が一望できる。写真左の宝剣岳から右端の三ノ沢岳に続く稜線。秋に一人で歩いた。初めてだと思い込んでいたが、実家の終活中に若い頃の山行メモが出てきて、約35年前に登っていたことが判明。自分の記憶のいい加減さに呆れかえった


中央奥は空木岳と南駒ケ岳。空木岳へはロープウェイ山頂駅から息子とお盆休みに歩いた

奥に空木岳(左)と南駒ケ岳(右)。真ん中の尾根が空木岳へ続く中アの主脈。手前の尾根は三ノ沢岳への稜線の一部

御嶽。今日も噴煙は上がっていない。奥に白山の山並みが見える

北ア方面の山並み。左の笠ヶ岳から北ア南部の山々が続く

左には笠ヶ岳から樅沢岳の稜線。その右に穂高連峰と奥に槍ヶ岳

槍穂のアップ。私には足を踏み入れられない次元の違う雪の世界

頚城山塊(くびきさんかい:妙高山、火打山、焼山)

社に手を合わせ、帰りの無事を祈る

さぁ下山しよう。祈りが届いたのか、風は幾分弱くなった。おかげで、帰路は前向き二足歩行でスタコラ下りられた。一度も耐風姿勢を取ることもなかった

小屋でブランチを食べた後、撤収作業。将棊頭山から下り、本日の稜線にお別れ。風がまた強くなった。木曽駒からの下山時に風が弱まったのも幸運の連鎖だったか・・

将棊頭山にもお別れ

昨日、駐車場をほぼ同時に出発した別のカップル。途中抜きつ抜かれつだったが、この場所にも私のすぐ後に到着された。樹林帯から稜線に出たこの場所で幕営されていた


効率的な最小限の風防。上手いもんだ。ここで稜線を眺めながらテン泊して帰られた模様。こういう山の楽しみ方もいいな。奥は御嶽

今日は4名ほど上がってこられたが、登山道はしっかりと踏み固められ幹線道路のような状態。踏み抜くこともなかった。ピッケルは引き続き手で持ったまま樹林帯を歩いた。枝に引っ掛からず快適だった

大樽小屋まで下りてきた。昨夜はここに泊まることにならなくて本当によかった

里山のような登山道を下る。岩や段差がなく、膝に優しいトレイルだ。登りにはこのあたりに積もっていた雪がもう消えている。本当に気持ちの良い山行に感謝感謝!


事前の天気予報では、2日間とも同じような天気予報だったが、蓋を開けると2日目は予報より雲が少なく、その代わり風がハンパなかった


進む途中で余程引き返そうかと思いつつ、ズルズルと先に進んでしまい、木曽駒ヶ岳まで行ってしまった。帰りに風が若干弱まったからよいようなものの、行きと同じような強風だったら相当時間がかかったと思うし、事故リスクも高まっていたと思う。このあたりは今後の反省点だ

さて初めてのクラシックルートでの木曽駒ヶ岳。思いのほか素晴らしい稜線で、お気に入りに即追加。再訪のみならず、上松や奈良井宿方面からもアプローチしてみたい


オリンピックまで危ぶまれる昨今。梅雨時期に計画している北海道の百名山ツアーも怪しくなってきた。百高山を優先しようかと思案中。残っている百高山は登山者が少ないマイナーな山が多いので、この状況下では悪くない選択かもと思い始めている


それにしても相変わらず装備がなってない。熊野古道を150キロ弱歩いた時と同じ小屋泊装備なのだが、1泊2日なのに古道歩きより2-3キロ重い20キロ。アイゼン、ピッケル、ワカン、厳冬期用寝袋があるにせよ重すぎる


コースタイムの1.1倍で計画を組んだが、実際はもう少しかかっている。今回はダウンパンツ、象足は明らかに不必要だった。おつまみも多すぎるが、アルコールとつまみは減量対象外なので、他で工夫するしかない(笑)

なお、本山行の詳細については、以下の記録を参照されたし

山行記録: 木曽駒ヶ岳。クラシックルートはお気に入り追加 ☜ ヤマレコの記録

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