なんだかなぁ・・・検査キット不足に思う

年寄りの繰り言

世間で不足が顕在化している検査キット。PCRも抗原検査も本来の診断に支障をきたすほどだ。いくつか理由はあるだろう。例えば、オミクロン株のような急速に感染拡大する変異株が出現したとか、ワクチンを2回接種していてもブレークスルー感染するケースが増えているとか、受験シーズンなどを迎えて感染チェックのニーズが高まったとか、比較的重症化しにくいので検査による陰性証明で経済を回す舵取りを始めたとか、政府が無料検査を施策として打ち出したとか・・・


でもコロナ感染は今に始まったわけではない。2年前から続いていて、早い段階からマスク、医療ガウン、コロナ用病床、保健所や病院のマンパワーなどの不足を経験済みだ。PCR検査も例外ではなく、初期段階から検査能力不足が問題となっていた。検査機器メーカーによる機器の増産、薬局チェーンや異業種による検査サービスの拡充など、各種の対応が図られてきたものの、今度は肝心の検査キットが足りないという事態


つい最近のTVニュースで、取材に対して検査キットメーカーの関係者が、「もう少し早く政府から増産の要請があれば対応を進められた」というような返答をしていた。これを聞いて愕然としたのは私だけではないだろう


すべて国が統制していたかつての共産主義国ならいざ知らず、日本は資本主義の国だ。検査キットメーカーは、自らそのビジネスに身を置いて自分の意思で企業活動をしているのであって、誰かにやらされているわけではないはずだ。需要の伸びが期待されれば、商機を掴むべく供給体制を強化して、少しでも売り上げを伸ばそうとするのが企業の性ではないのか?


美しく言えば「顧客のニーズの充足に邁進する」、本音で言えば「少しでも利益を出そう」という熱意、貪欲さのようなものが感じられない。今回のケースで言えば、先行して欧米であれだけ急激に感染が拡大するのを見ていて、対岸の火事ではなく早晩この国にも同じように起こる感染拡大に伴う検査の需要増加が予測できていたにもかかわらずだ。なんだかなぁ・・・、このあたりに日本企業の地盤沈下、国際競争力の低下の原因の一つを見た思いがする


検査キットの不足については、検査の拡大と無料化の政策を実行する前に、ハード・ソフト両面から実行可能性を担保しておくべきで、これは政治家や官僚の責任だ。こちらも学習効果がないというか、今回もそれを怠り、またも同じ轍を踏んでいる。コロナ禍で幾度となく露呈した非常事態に対する行政の機能不全や平時を前提とした現行法の限界だ。これも大きな問題だが、今回のぼやきとは別の問題


国の機構や法律の刷新はさておき、企業が長期にわたって成長し、存続しようと思うのであれば、自ら需要を掘り起こす努力、機先を制する行動をすべきだろう。今回の事例で言えば、検査キットをどんどん増産し、専門家を味方にして政府に対して検査の拡充や無料化を働きかけ、自社の売り上げを伸ばそうとする『したたかさ』、『泥臭さ』があって然るべきだと思う


決して不正めいた事やエコノミックアニマルと呼ばれた頃の倫理的にグレーなことをしろと言っているのではない。ビジネスチャンスに対する嗅覚のようなものを研ぎ澄まし、あの手この手でチャンスをものにしていく姿勢の有無を問うているのだ。コロナ禍が始まって以来、検査能力の飛躍的向上は社会的要請であり喫緊の課題であったわけで、その観点からも検査キットの供給増大は、世の中のニーズを充足することでもある


検査キットメーカーにも言い分があるかもしれない。増産しようにも工場に拡張スペースがないとか、なかなか人を雇えないとか、一時的な需要に強気で攻めてその後に過剰在庫や余剰キャパで苦しむリスクがあるとか、失われた30年で足腰が弱まっているとか・・。でも二年の間に手を打つ時間はあったはずだ。インタビューにおけるメーカー担当者の返答が、全てを物語っているように思う。自ら動こうとしなかったのだ


この国ではユニコーンのようなベンチャー企業がなかなか育たず、大企業も過去の成功体験から脱却できず、新規事業やイノベーションに踏み込めない。日本経済は長らく浮上できないどころか沈みゆく船のごとき状況だ

資本主義は自らの創造力と市場の原理を推進力として発展すると解釈している。しかしながら、自由と競争による活力がある一方で、短期的な成果による投資のペイオフを求めるプレッシャーなど、SDGsや長期的な成長などの観点からは、負の作用を及ぼす側面もある

どのように発展を目指すかは企業の選択なのだが、このような負の圧力に汲々として無難な経営の道を選び、大胆に打って出られない企業は少なくない。検査キットメーカーも同じような状況だったのかもしれない。このような資本主義の問題点についても別の機会にぼやくとしたい

話しを戻そう。本ブログで「なんだかなぁ・・・」とぼやいているのは、昨今の企業に見られる懸念すべき風潮、二の足ばかりを踏んで動こうとしない消極性である。企業経営、企業風土の萎縮とも言うべき状況だ。TVのCMのフレーズではないが、「もうちょっとやる気出そうよ」に尽きる

欲を言えば、さらに進んで、日本で生まれている独創的な技術の芽を武器に、リスクを取って果敢に攻め、その分野で一気にグローバルリーダーを目指すアグレッシブさの欠如だ。良い意味での『したたかさ』、『泥臭さ』を取り戻してもらいたいものだと願っている


最後に蛇足ながら、今回のブログは現状におけるPCR検査や抗原検査の積極実施の政策を是としてキット不足を論ずるものではなく、また政府のお粗末さを嘆くものでもないことを念のためお断りしておく

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