『日本を今一度せんたくいたし申候』ー私が考える日本の将来像ー

年寄りの繰り言

はじめに

この言葉は、坂本龍馬が姉の乙女(おとめ)に宛てた手紙の中に出てくる有名なフレーズだ。乙女は小さい頃に弱虫だった龍馬を遊びに連れ出して鍛え上げ、武芸や学問を教えた男勝りの姉だった。龍馬は兄よりも姉の乙女から多くを学び、何でも相談できる相手として慕っていた


江戸、京、長崎、長州、薩摩、越前などを飛び回りながら乙女に多くの手紙を書き綴っている。維新の志士と言えば、激情的な文章や悲壮感が漂うような手紙を想像するが、龍馬の手紙は素のままで茶目っ気があり、躍動的ではあるが熱くなりすぎず、比喩やユーモアを交えた面白い手紙が多い。ご興味のある方は、講談社学術文庫の「龍馬の手紙」 宮地 佐一郎著を手にされたい

冒頭のフレーズは、既存の体制をぶっ壊すという漠然とした志を持って活動していた頃の想いのようで、後の「船中八策」という国家ビジョンにつながるような将来像を持っていたわけではない。NHK大河「青天を衝け」の渋沢栄一と同じく、駆け出した当初はまだ明確な改革案を持っていたわけではないようだ


さて、冒頭から横道に逸れたが、以前このブログで「なんだかなぁ・・・」のぼやきシリーズとして日本の現状を嘆き、日本の将来を憂いた。その時に、目指す日本の将来像についての持論を別の機会に紹介したいと書いた。龍馬のように世直しのために奔走する気概もなく、隠居老人の繰り言の延長に過ぎないが、拙論を以下に述べてみたい


横道や細部に入り込まないように、まずは幹や大きな枝の部分にフォーカスすることを意識して書いた。言葉足らずで真意が伝わらない恐れはあるが、意を尽くして補足的に書き足せば、すでに長い文章がさらにダラダラと長くなってしまうので、各論はまた別の機会にぼやくことにしたいと思う

要約

20-30年先を想定した将来像とその実現に向けた課題と解決策を述べた

ざっくりいえば、
■人口の減少に合わせて、自然と共生する住みやすい住環境をつくる
■経済大国などの国威を求めず、国民一人ひとりの豊かさを追求する
■広い意味での安全保障に注力し、安心して暮らせる社会をつくる
■民主主義を成熟させ、市場経済を基本としつつも、一定の計画経済を推進する

現状認識

将来像を語る前に、日本の現状について私の認識をざっくり整理しておきたい

加速する少子高齢化社会

■ 一方で、出生数は低下傾向が続き、この傾向は長期にわたって継続すると予測されている
■ 結果として総人口は現在の約1億2500万人から長期的に減少し続け、2100年頃には半分以下の5000万人程度になると予想されている
■ 生産年齢人口(15-64歳)は1995年の9000万人弱(人口比率約70%)をピークに減少しつつある。働き手はますます減っていき、30年後の2050年頃にはほぼ半減する(人口比率52%)

日本経済の伸び悩み

■ G5、G7と仲間入りをしてきた日本のGDPは相対的に徐々に順位を下げていく(現在は世界第三位の規模)
■ 生産年齢人口の減少に伴って1995年あたりからGDPは横這い傾向が続き、GDPの成長率比較では、1990年代前半からほぼ2%で推移し、G7の中で最下位が続いている
■ 2010年にはGDP世界第二位の座を中国に奪われ、台頭する他のBRICsや韓国などの新興国にも抜かれていくと予想される(BRICs:Brazil、Russia、India、China)
一人当たりの実質GDP(購買力平価換算)では、日本は30位。トップ5はルクセンブルク、シンガポール、アイルランド、カタール、スイス。米国は7位、韓国は27位、人口が多く農村部の経済発展が途上にある中国は77位

戦後の勝ちパターン、成長軌道の終焉

■ 欧米の背中を追う高品質、低価格、大量生産の高度経済成長時代のビジネスモデルはすでに過去のものとなった
■ 新興国が日本と同じ戦略で成長し、このビジネスモデルにおける日本の競争力は低下し続けている
■ イノベーション、ベンチャーが育ちにくく、新たな成長モデルを確立できず、高付加価値ビジネスモデルへ転換できていない
■ 企業は短期利益志向に陥り、投資を絞り採用や賃金を抑制し、結果、GDPの大きさに比較して、一人ひとりが豊かさを感じられない社会となっている

日本人の意識、価値観の変化

■ 良くも悪しくも「日本的」な特徴、精神文化が消えつつある
■ 特に個人の権利意識が肥大し、社会善や美徳に対する意識や感性が低下している
■ 安定志向が強く、変化を躊躇し、安易に前例踏襲に傾く

■戦後の平和な時世に慣れ、周辺で高まる緊張に対する危機意識が低く、平和ボケ状態にある 

国として成熟せず、国際社会で地盤沈下

■ 戦後、民主主義国家を標榜するも、本来あるべき民主主義へと成熟していない(憲法に一度も手を付けられず、自衛隊も宙ぶらりんで放置するなど、国民による議論とそれに基づく政治が行われていない)
■ 骨太のジャーナリズムは減退しつつあり、多くの人が手軽にアクセスするネットニュースは偏りや質の低下がみられる
■ 国民も政府も海外への関心が薄く、国際社会で相応の役割を担えていない
■ 学術面においても基礎研究力が低下し、イノベーションを生み出す力が弱まっている

政治の機能不全

■ 議員の人数が多く、国民の負託に応えるべく働いているのかどうか疑わしい議員が少なくない
■ 政治は旧態依然のままで、変革の担い手と期待する若手の次世代リーダーが台頭しない(特に国政において)
■ 野党の国政への寄与度は低く、与党の批判・揚げ足取りが多く、牽制・監視、代替案の提示など本来の役割を十分に果たせていない
■ 省庁の縦割り、前例主義の弊害が随所に見られ、中央政府と地方政府の意思疎通・連携も取れず、時代に合致した改革が進められない。とりわけ危機に際して機動的かつ統合的に動けない
■ 国際社会においてガラパゴス的な制度、法令が放置されている

目指す将来像

【規模や国威を求めず、国民生活の「豊かさ」や「安心・安全」を追求し、平和で幸福な社会をつくる】

「豊かさ」とは

■ 自然を守り、育み、多様な生物と共生し、四季を感じられる環境の豊かさ
■ 人や社会への思いやりに溢れる心の豊かさ
■ 文化や伝統を大切にしながら、イノベーションを享受できる社会の豊かさ
■ 生活する上での経済的な豊かさ

「安心・安全」とは

■ 災害や犯罪、テロ、戦争、サイバー攻撃などから守られる安心・安全
■ 食の品質や安定確保による安心・安全
■ 国土の保全による安心・安全
■ 先端医療を受けられる安心・安全

課題と解決策

基本理念・スタンス

地球と共生し、自然サイクルの一部として存続する社会の構築を基本として、目指す将来像を実現する

基本戦略

① あるべき民主主義に向けた国民の議論とコンセンサスの確立
② 教育、人材育成の量と質の改善に向けた積極投資(人は国家の礎)
③ 市場主義を基盤としつつ中長期的視野にもとづく計画経済の導入
④ 可能な限り国内生産による一定の自給率の確保
⑤ 国の統治体制の見直し
⑥ 広義の安全保障強化に向けた重点投資

重点課題と解決策

中長期国家ビジョン・戦略

イ) ブレーン機能の拡充と国民の議論
■ 経済財政諮問会議や成長戦略会議などのブレーン機能を充実させ、国内外の幅広い有識者により国民の議論を巻き込んで中長期の国家ビジョン・戦略を策定する
■ 国家ビジョン・戦略に基づいて政策を立案し、確実に実行する

ロ) 政策実行の進捗管理
■ これまでも各種提言がなされビジョンや中長期戦略に反映されているが、DX戦略や医療改革などは、自ら掲げた安倍長期政権においてすら実現されていない。「言いっ放し」体質をマスコミも世論も放置しない

■政権による政策実行の進捗を客観的に管理する。政権が変わったとしてもしっかりと実行すべく、PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を確実に回すモニタリング機能を作り、国民に進捗を毎年公表して確実な実行を監視する

人口問題

イ) 人口変動への対処
■ 年齢構成、人口推移など自然の成り行きに任せる
■ 人口の減少、空き家の増加に合わせて豊かな住環境づくりを進める(欧米から揶揄された「うさぎ小屋」にサヨナラ)
■ 再教育機会の提供により、必要な分野の人財を確保する

ロ) 少子化対応
■ 社会全体で結婚、子育てを支援する仕組みをつくる
■ 費用補助や税優遇などを弾力的に行う
■ 女性、シルバー人材などの多様な働き方を取り込む仕組みをつくる

ハ) 移民・外国人政策
■ 日本社会は閉鎖的なため、将来的に孤立や分断を起こしかねない移民政策は基本的に行わない

■労働力確保のための安易な外国人受け入れは行わず、実施は中長期的な観点で必要最小限にする
■ 一方で特殊技能保有者などは積極的に受け入れる
■ 在住外国人の待遇は日本人と同等以上を基本とし(労働待遇、医療、教育など)、孤立しないよう社会の受け入れ体制をつくる 

経済

イ) 規模や量から質への転換

■経済大国に固執せず(G7を外れて構わない)、一人当たりの実質所得などを指標として、国ではなく国民の経済的な豊かさを追求する

■ 経済の質の向上に向けた基礎研究や新技術・サービス開発へ積極的に財政投入する
■ 新たな技術やサービスを速やかに実現できるよう法規制を整備する

■ 経済を最優先せず、人権・環境・動植物などの保護を第一とし、日本の政策や経済活動を早急に見直して是正する(襟を正す)

ロ) 中長期戦略に基づく計画経済の推進
■ 市場経済を基盤としつつ、持続的な経済成長や安全保障などの観点から、国家として意思を持った産業構造の変革と育成を先導する
■ 農産物、基幹工業製品などは一定の自給率を確保すべく、内製と輸入のバランスを取って供給リスクを最小限にする
■ 一定の自給率を維持する製品については、海外品より高くても国内製品を優先する消費マインドを醸成する(インセンティブを付与する仕組みの導入も併用して)

ハ) 国家による直接的・間接的な事業経営の拡大
■ 産業や生活のインフラにかかわる事業については、国家予算の投入などを積極的に行い、直接的・間接的な経営への関与を進める
■ 革新的研究や特殊な技術に対する目利き機能を高め(役人任せにしない)、ベンチャーやスタートアップ、中小企業への財政支援や資本投入を強化する。また、民間資金が流れる税制面でのインセンティブを整備する
■ 利権の悪用を防止するため、天下りや贈収賄・腐敗行為、財政投入の妥当性などを監視する機能と罰則を強化する

ニ) 地方の活用
■ ICTなどのテクノロジーを取り入れて地方社会を再開発し、過疎地も含め郊外や地方で自然と触れ合う広々とした住環境を整え、暮らしの豊かさを実現する
■ 地方活性に民間の活力を用いるべく、地方に進出する企業や転入する個人に対する税や費用補助などのインセンティブを拡大する

■農地改革を進め、法人化などにより農業を地方産業として育成し、工業化、自動化などを進め、第一次産業の生産性を高めつつ、気候に影響されにくい安定供給を実現し、食の自給率の改善につなげる

教育

イ) 思索、議論、判断を重視
■ 知識の習得に偏らず、考える・議論する・判断する力を育む
■ 独創性を重んじ、失敗を許容し再挑戦を支援するマインドを醸成する

ロ) 近代史・現代史の強化
■ 世界大戦や地域紛争など事実を客観的に伝え、現在の国際情勢や周辺国との関係にどのようにつながっているかを考えさせる(過去の日本の過ちや不都合な事実についても同様)
■ 国内外の緊張や危機を認識させ、緩和や回避に向けて何をすべきかを考えさせる

ハ) SDGsをベースに「社会善」「道徳」の追求
■ SDGsそのものを知識として教えるのではなく、背景や課題を認識させ、解決への取り組みを自ら考えるカリキュラムを大幅に増やす
■ 地球との共生、社会での共同生活のために、社会にとって善きこと、人としての道を考えさせる
■ 多様性を尊重し、弱い立場の人たちに手を差し伸べるマインドを育む

ニ) 継続的な生涯教育機会の提供
■ 学び直し、ステップアップを応援する教育機会や支援制度をつくる
■ 人口構造、産業構造の変化に必要となる人財の育成を国の優先課題として財政投入する

立法府、行政府、司法府のテコ入れ

イ) 立法府のスクラップ&ビルド
■ 下院(仮称)は国家戦略重視の要員構成とし、すべて全国区の100名程度の体制とする。各政党が目指す国の将来像と各施策を明示し、100名の陣容と首相を含めた発足時の内閣の布陣を明確にした上で選挙を行う
■ 過半数の得票を得た政党(または連立)が下院を独占し、機動的かつ一貫性のある執行を行う。過半数を獲得する政党がいない場合は、連立を組んで再選挙を行う
■ 上院(仮称)は下院のチェック機能の役割を担い、国政と地方政治との整合性、連携を重視して地方区選出とし、94名の体制とする。選挙は県単位で実施し、各県1名を選出する。これに知事を加えて各県2名とする(知事は兼任とし、代理の指名も可とする)
■ 上院(仮称)の3分の2の可決をもって、下院(仮称)の予算案や法案などを承認する
■ 時代の変化や民主主義の世界動向に合致した法律の制定や改定をタイムリーに行っているかを評価する仕組みをつくる(監査機能や第三者委員会など)

ロ) 行政府の責任・権限の明確化と行政に対する監視機構の強化
■ 機動的かつ一元的な執行を可能とするため、中央政府に権限と責任を持たせる
■ 危機管理の専任組織をつくり、テロや天災などの有事には、省庁(横の協働)および地方行政(縦の協働)を結集するコントロールタワーとする
■ 遅れているDXについては、中央主導でシステムを作り、同じシステムを統一的に地方で使用することを基本とし、初期開発投資を抑えるとともに、データ統合やシステムのバージョンアップ、メンテナンスを容易にする
■ 中央政府の権限の拡大に伴う利権の悪用を防止するため、天下りや贈収賄・腐敗行為、予算執行の妥当性などを監視する機能と罰則を強化する

ハ) 司法府の視点、感性を広げ高める
■ グローバル視点を取り入れ、日本の司法制度のガラパゴス状態を早期に解消する
■ 審査をスピードアップするため、審査期間に上限目標を設ける
■ 国民感覚と現行法、判決のズレをなくすための仕組みをつくる(監査機能や第三者委員会)

安全保障への優先投資

イ) 内閣に危機管理の専任組織を持つ(例えば危機管理庁)
■ 幅広い危機管理(災害、犯罪、テロ、戦争、サイバー攻撃など)に対処できる専任組織とし、各分野の専門家集団を下部組織に構成し、平時は常にリスクを精査し担当省庁や自治体と対応準備を強化する
■ 危機状況が発生した場合は、省庁や地方政府、民間によるベストなタスクフォースチームを編成し、その司令塔の役割を担う

ロ) 自衛隊を再定義する
■ 文民統制体制を堅持する
■ 国際情勢の緊張が高まる中、国防の重要性はかつてないほど重要性を増している。現実から目をそらさず、早期に自衛隊の法的な位置づけを明確にし、防御体制を強化する
■ 国防のみならず、上述の幅広い危機管理任務を遂行すべく自衛隊を発展的に解消し、危機対応機能とする(現実的にそのような任務をすでに遂行している)

ハ) 国土保全を強化する
■ 重要機能が集中する都市部で大規模な天災やテロが発生すれば、政治、経済などがマヒする。地方への機能分散によりリスクを下げる
■ 気候変動などにより危険度が増している災害に対し、優先順位を整理した上で、より厳しい基準に合致するようハード・ソフト両面の整備を計画的に実行する
■ 森林などの保全を事業化し、水源の確保や洪水、土砂崩れなどの防止に取り組む。また海外での森林伐採・輸入を止め、国内の地産地消を高める
■ 老朽化したインフラの補強や更新を計画的に実施する 

■外国人、外国資本による土地の所有を原則禁止してリース方式とし、審査を厳格化する

ニ) 自給体制を強化する
■ とりわけ自給率の低い食の国内生産を再整備する。限界集落など過疎化する地域を活用し、農産物工場を作り生産性を上げる。漁業についても、養殖技術などにより資源を確保する。これにより乱獲による資源の枯渇や世界規模の紛争などによる調達困難に備える
■ 基幹工業製品についても、日本企業ならびに外国企業の国内生産を支援し、自給率を高める
■ 希少原料については、依存度を下げるための代替技術開発の取り組みを支援する

ホ) 原発を廃止する
■ 脱炭素の観点から原発は有力ではあるが、見かけ上の発電コストの安さに対し、地元への補助金、核廃棄物の処理費用、将来の廃炉費用などを総合すれば他のエネルギーよりもはるかに高い
■ 過去の事例のように大地震などの甚大な災害やヒューマンエラー、設備故障などにより重大な事故につながる
■ サイバー攻撃やテロ、ミサイル攻撃の標的にされれば、原爆投下と同じような悲惨な状況をもたらす
■ 以上より、原発の全廃に向けて段階的に廃炉を進める

ヘ) 医療体制を再編・強化する
■ 国際的に信頼されるワクチン行政を行う(はしか輸出大国などと非難されないように)

■医療連携体制に関する過去の提言の実行度を上げ、医療供給における病院の機能分担と連携体制を早期に構築する。その上で、危機管理の観点から中央政府主導で国公立の病院を増やす
■ 温暖化による熱帯病などの伝染病の拡大、万一の生物兵器などによるテロを想定した医療体制の整備(臨時の野営方式も含めて)や特効薬の開発を進める
■ 民間病院に関しては、非常時に機動的に病棟を確保できるよう指定病院を選定し、改装などのハード面の整備を支援する

ト) 戦略的に情報発信を積極的に拡大する
■ 日本にとって過去の過ちや不都合なことも含め、透明性を持って事実を正しく内外に伝えるスタンスを堅持する。決して情報操作をしない

■ネットなど最新ツールも活用し、日本の考え、立場、正当性を主張する情報を多言語で配信する

■ 経済的誘惑、武力的圧力などにブレることなく、民主主義国家としての主義主張を貫く

(以 上)

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