訪米土産のつもりか、菅さんがファイザーのCEOと直談判して、9月末までに全国民分のワクチンを確保できると自信げにアナウンスしていた。それでもまだ5か月以上もかかるという話なのだが・・
政府の数量目標にはPCR検査数やコロナ病床確保数など、安倍さん時代から随分と肩透かしを食らわされてきた。実現したためしがない。今回のワクチンも本当に確保できるのかすんなりとは信じがたい
<スムーズなワクチン接種の阻害要因は?>
仮に、ワクチンの予定数量が確保できたところで、接種が予定通り進むとも思われない。インフルエンザの予防接種のように、開業医でも学校でも職場でも、どこでも接種できるわけではない。低温管理の問題もあり、限定された会場での接種に限られる。さらに会場で接種対応できる医療従事者は絶対的に不足している
イギリスのように特例措置で、訓練を受けた一般人のボランティアでも接種できるような体制を作らない限り、スムーズに接種が進むとは思われない。マンパワーの不足による接種遅延が原因で、おそらく従来スケジュールでのワクチン調達でも問題ないのではないか?
制約条件となるボトルネックに手を打たない限り、調達時期を早めても実効があがらないだろう。大阪府が新設したコロナ重傷者病棟と同じで、物はあっても人手が足りず実質的に半分程度しか稼働できないというのと同じ事態になりかねない
厚労省は平時の規制を死守するばかりで、柔軟に対応しようともしない。ボランティアに接種させて事故があった場合の責任を問われることを懼れているのだろうか。コロナで亡くなる方が第4波の始まった現状で1日当たり20-30人、第3波のピーク時は連日100人を超えていた
接種が進んでいるイスラエルやイギリスでは、感染者数も重症者数も死亡者数も大幅に減少している。接種が1日遅れることで、数十人が亡くなるとすれば、1か月で1000人近い人が命を落とすことになり、人災以外の何物でもない。接種の人手不足を解消できない政府や厚労省の罪は重い
歯科医による接種も可能にするとしているが、とても人手不足が解消するとは思われない。訓練した一般人による接種を躊躇するというなら、せめて医学部や看護学部の学生が在学中に学ぶ注射の訓練を今すぐにでも前倒しして実施し、ワクチン接種に協力してもらうなどの手を打つべきだろう
<ワクチン接種はどうあるべきか>
それはさておき、私が本題とするポイントに移りたい。限られたワクチンをどう活用するか、つまりどのような順番で接種していくかという課題。これが全く議論されず、政府が決めた方法で粛々と進んでいることに、野党からもマスコミからも議論の声がほとんど上がらないのが不思議だ
医療従事者を対象とした優先接種に異論をはさむ人はいないだろう。では、それに続く高齢者接種はどうか?35百万人ともいわれる高齢者が、高い重症化リスクに晒されていることは間違いない。医療現場を逼迫させる重症者を減らすという大義があるとしても、現在の進め方は本当にベストだろうか?
現在のワクチン配布は、人口分布に応じて全国平等に行き渡らせるという方法である。ある意味で究極の「公平」なワクチン配布だ。では、医療の逼迫に直結する重症者を減らすという本来の目的からはどうだろうか?
感染の状況は、大都市周辺で顕著であり、地方の多くはさほど拡大していない。医療の逼迫を防ぐということを第一優先とするなら、リスクに基づいたアプローチ、例えば人口10万人当たりの感染者数や重症者数などに応じて、ワクチン配布数を按分するという方がより効果をあげられるだろうし、公平ではないか?
もし東京オリンピックの開催を最優先とする場合は、首都圏から接種を進めるという選択肢もあるだろう。また、経済を最優先するという目標を掲げるなら、現役世代を優先するという考え方もあるだろう
医療従事者に続いて、社会のインフラを支えるごみ収集や配送などに従事するエッセンシャルワーカーを優先すべきという意見も納得性がある
死亡リスク低減を優先するというなら、医療崩壊になりつつある関西地区のワクチン接種を優先するという選択肢もあるかもしれないし、英国のように一回目の接種を優先して広く国民に行き渡らせる方法もあるだろう
TVでも放映されたハーバード大学の超人気講座であるマイケル・サンデル教授の白熱教室の議論のように、いろんな意見が出るだろうし、結論が出るものでもないかもしれない。でもそのような議論のプロセスを経ることが必要ではないかと思う
日本として、何を優先するのか合意形成するための議論がしっかりなされていると言えるだろうか。経済やオリンピックよりも、国民の命を最優先するという点については、概ね国民のコンセンサスが得られていると思うが、ではどうやって命を守るかという点については、十分に議論もされていないし、コンセンサスが得られているとも思えない
どのようなワクチン接種をすればコロナを早く終息させて日本の死亡者を最小化できるのか?スパコン富岳を駆使してシミュレーションを行うなどして、現時点での最適解を見出し、その上で国民に丁寧な説明を行い、考えられるベストな接種を進めるという合理的なアプローチをとるべきではないかと思う
今現在進めている究極の「公平」なワクチン接種は、一律に10万円給付した政策と同じで、単純明快ではあるものの、対コロナ戦において本当に最適な施策といえるのか疑問が残る
シミュレーションの結果によっては、「感染拡大源」となっている大都市圏や若い世代から集中的に優先摂取する方が、効果的というような結論になるかもしれない。世界一のスパコンを有する技術立国の日本的なコロナとの戦い方があって欲しいものだ。野党もマスコミもアカデミアも国民も、もっと議論していいのではないか?
お上が決めたことには、さして疑問を挟まず従順に従うというこの国に染みついた国民性と言えばそれまでだが、「なんだかなぁ」と感じるのは、私一人ではないと思いたい
<後記>
TVニュースで東京都の各区へのワクチン配布量を報道していたのを見ると、ワクチンの配布については、単純に人口比率で配布しているわけではないようだ。市や区などの各自治体が、接種体制などの準備状況をもとに、都道府県に必要数を要求して、それをベースに限りあるワクチン量を按分して(鉛筆を舐めて)区や市などの各自治体への配布量を決定しているようだ