なんだかなぁ・・トリチウム「汚染水」

年寄りの繰り言

本ブログでもたびたび紹介するように、山登りを趣味とするので、日本各地の山に出かける。営業小屋を利用することもあれば、無人の小屋を利用することも、テント泊することもある


山中泊では水の調達は死活問題で、ルート上のどこに水場があるのか、その水場が生きているのか涸れているのかどうか、事前の情報取集には気を遣う。テント泊する際は自炊することになるので、水の使用量は多くなり余計に神経をとがらせる

写真は山に持っていく浄化フィルター(SAWYER ソーヤー ミニ SP128 ☜ クリック)。2種類持っている携行用浄化器のうちの一つ。性能的には細菌を99.99999%(7 log)除去でき、米国環境保護局の安全基準99.9999(6 log)を上回る。川や池の水はもちろん、性能的には冬場の学校のプールに貯めてある水でも飲料水に変えられる性能だ


私の場合、山に携行しても大抵は沢の水をそのまま飲むので、このフィルターを使用することはあまりない。万一、水に窮して池塘(ちとう)などの水が溜まった池沼や、ちょっと心配な沢の水しか調達できない場合に使うことがある程度だ


さて、ここから本題。政府は福島第一原発で貯蔵している放射性物質の処理水を海洋放出することを決定した。これに対して、国際原子力機構(IAEA)や米国高官は合理的な方法であると肯定的な見解を示した一方で、国内外からは反発や憂慮の声が上がっている


とりわけ福島の漁業関係者は風評被害を心配しており、これに対して東京電力は風評被害による損失を補償するとしている。補償額は数億円に上ると見積もられているが、海洋への放流となれば、海流に乗って拡散するので、風評被害の地域は福島に留まるとはいえず、また処理水の放出には何年もかかるので、風評被害の期間もどれくらい続くか分からず、数億円で済むとは思われない


後述するように、放出時点で世界的な安全基準を十分に下回るレベルまで薄められる。さらに放出後はすぐに拡散して無視できるレベルに薄められると言われているが、風評被害はサイエンスのデータが安全といえども無くなるものではない。ちなみに、あの原発事故から10年が経過した現在、未だに日本の農林水産物を対象に輸入規制を行っている国や地域は少なくない(下表参照)

農林水産物の出荷に際して全数(全体)検査を行っているわけではないので、いくら抜き取り検査で安全基準を満たしているからといって、相手国の懸念を完全に払しょくすることはできないだろう。自国民の健康を守るという大義名分などから規制を行っているわけで、これを「風評被害」と言い切るのは難しい


個人的には、「ハラスメント」の議論に似たものがあると思っている。同じ行為でも相手によって受け取り方が違い、ハラスメントと訴えられることもあれば、特に問題視されず受容されることもある。国の文化や個人の感受性は異なり、一概にハラスメントかどうかを断じることが難しいのと同じである


トリチウム以外の放射性物質については、除去装置ALPSによる濾過などの方法でほとんど除去されるものの、トリチウム水は通常の水(酸素原子1つに水素原子が二つが結合した分子)の一つの水素原子が、三重水素のトリチウム原子に置き換わっており、同様な濾過では普通の水分子と区別することができず、フィルターの膜を通過してしまう


トリチウム自体は自然界にも微量に存在し、通常の原発においてもトリチウムは発生する。原発から出るトリチウムは海洋や大気中に排出されており、各国の原発からの排出量は以下のような数値になっている

実績年度が異なるので単純比較はできないものの、福島第一原発が年間に放出しようとするトリチウム放出量が、通常の原発からの放出量と大差ないことが分かる。にもかかわらず、中韓など諸外国からの反対の声は大きい。国際機関への提訴や賠償などにも言及している。長年の懸案事項がもたらす政治的な関係悪化によるリアクションと反論する向きもあるが、比較的有効な関係にある台湾やアジアの国からも懸念の声が上がっているのは事実である


度重なる東電のミスや隠ぺい、今回の決定に至るプロセスや判断基準に対する日本政府の情報発信の少なさなども影響しているのは間違いない。日本政府が今回の決定をどうしても推し進めるというのなら、常時モニタリングの数値を誰もが見られるようにネット配信するとか、IAEAなどの第三者機関さらには反対国による査察の積極的な受け入れなど、透明性を持って実行し、懸念を払拭すべきと考える


ただ私個人としては、たとえ理屈上は安全なレベルまで希釈した上での放出だとしても、安易な海洋放出には反対である。以下のような方法に取り組み、可能な限り放出量を最小化すべきである


1.放出時期の延期
トリチウムの半減期は12.32年である。何もしなくても約12年経てば、放射性物質は半分に減少する。震災から10年が経過した。タンクへの貯蔵履歴が管理されているなら、半減期を経過したタンクから順番に海洋放出することで、トリチウムの放出量を半減できる。原発敷地内が満杯で保管できないというが、周辺地域を含めて保管区域を確保することはまだ可能なはずである


2.除去技術の実用化
近畿大学、京都大学などにおいて、すでに実験レベルの除去技術が開発されている。また、日本政府と東電が開発委託したロシアの研究機関においても、技術的な目途は立っている。この他にも、米国のキュリオン社が技術的開発ができたとしている。これらを早急に実スケールレベルに上げて、除去に取り組むべきだったし、今からでも実行すべきだ


例えば、近畿大学と東洋アルミニウムが開発した技術では、直径5ナノメートル以下の多孔質体のフィルターを通すことによって、トリチウムを補足することができるとしている(5年以上も前に!)。加熱することで、補足したトリチウムを放出させて回収できるとのこと


必要とされる一日当たり約100トンの水を処理するための装置建造には、数億円の費用がかかると言われるが、仮に実際の費用が一桁大きくなって数十億円になったとしても、アベノマスクに260億円の税金を使ったことを考えれば、十分に費用対効果が見込める投資である


コロナで無策続きの厚労省が、感染情報収集やワクチン接種管理のために開発したアプリ数本は、部署ごとに作成したために統一性がなく、データの重複入力が必要とされ、現場では使い物にならないと不評だ。これらアプリの開発には、一本あたり10億円以上もの費用をかけており、税金の無駄遣いも甚だしい


こんなものに多額の費用を湯水のように使うくらいなら、汚染水処理に回すべきだろう。先に述べたように、風評被害の補償額がいくらに膨れ上がるか分からないリスクや、周辺諸国からの賠償請求などがまかり通ってしまえば、国際社会での日本の信頼は落ち、費用負担も甚大となる


中国の賠償請求などはコロナ賠償で対抗しろとか、ネットではすぐに感情論などが渦巻くが、これまで10年も風評被害に苦しんできた漁業関係者に想いを馳せれば、安易な海洋放出などできようはずもなく、トリチウムの放出を最小限にする努力を重ねるべきだと思う



さて、冒頭の携行型浄水器の話に戻そう。この浄水器で近くの学校のプールの水(緑色に変色した冬場の水)を濾過したら、あなたは飲めるだろうか?性能的には十分に安全なレベルまで細菌などを除去できる。でも私は試すことすらできない。何となく気持ち悪い。これしか水がなく、飲まなければ死んでしまうという状況なら、やむなく飲むだろう


放射性物質も同じこと。IAEAやWHOの基準をクリアして安全だと言われても、口にするのはちょっと躊躇する。もしあなたが「海洋放出は安全だ、問題ない」と言い張るなら、あのタンクの水を政府が計画するレベルから、さらに100倍でも1000倍でもいいので薄めたものを飲んでみてほしい

そして自分だけではなく、愛する家族や親しい友人にも飲んでもらうよう説得してみてほしい。放射性物質以外の細菌などが心配だというなら、紹介した携行型浄水器のようなもので濾過すればよい

妥当性はともかく、タンクに保管された水を徹底的に浄化して飲料水にし、国民有志で消費してしまうというのが、風評被害を払しょくする究極の方法なのかもしれない。海外からとやかく言われることもないだろう


低濃度に希釈されたトリチウムは、健康被害はないとされ、体内に蓄積されることなくすぐに排泄されてしまう。日本全国の下水を通して広く薄く放出すれば、福島の負担も軽減される


余談になるが、10年以上前のこと、中国の上海から少し奥に行ったところで会社のグローバル会議を行った。日本から参加した出席者が、上海ガニを何匹か縄で縛ったものを土産として購入した。私が「空港の検疫で取り上げられちゃうよ」というと、「それは肉や野菜などの動植物の話で、魚介類は対象外だ」という。理由は、海でつながっているので魚介類は国境を越えて自由に動くから、ということらしい。事実、成田の検疫は問題なく通過した


これを考えれば、海流に乗って太平洋や日本海を回遊する魚は、いつ福島沖で「汚染水」を吸収し、巡りめぐって自国の近海にやってくるか分からず、輸入規制どころの話ではないということなのだろう。まして、中国や台湾や北朝鮮は、日本近海で魚介類を取りまくっているので・・。これは蛇足だったか

<補足後記>
本ブログではトリチウムをメインに記述したため、他の放射性物質については触れなかった。汚染水にはトリチウムを含めて62種類の放射性物質(核種)が混入しており、トリチウム以外については、ALPSにより基準を下回るレベルに除去可能とされる


一方、福島第一原発に貯蔵されている処理水のタンクの水は、約8割の物質において、基準を下回るレベルに除去できていない状態で保管されている。海洋放出にあたっては、東電・政府とも再度ALPSによる処理を行い、基準値以下にした上で放出するとしている

以下に、東電のWebサイト(処理水ポータルサイト)に記載されている文章を転載する(Q&Aからの転載)

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汚染水に関する国の「規制基準」は


①タンクに貯蔵する場合の基準、
②環境へ放出する場合の基準の2つがあります。周辺環境への影響を第一に考え、まずは①の基準を優先し多核種除去設備等による浄化処理を進めてきました。そのため、現在、多核種除去設備等の処理水*はそのすべてで①の基準を満たしていますが、②の基準を満たしていないものが8割以上あります。


当社は、多核種除去設備等の処理水(告示比総和1以上)の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針です。

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以下に、引用した東電の「処理水ポータルサイト」のURLを紹介する。合わせて、環境保護団体「グリーンピース」のURLも紹介するので、ご覧いただければと思う


東京電力 処理水ポータルサイト ☜ クリック


グリーンピース 関連サイト ☜ クリック

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