COVID-19に思うことー4

年寄りの繰り言

ディズニー周辺に立ち並ぶホテル群。ディズニー客のためにあるようなホテルなので、2月29日からのディズニー休園により、ほとんど休業状態が続く。まれに客がいるように見える部屋がポツポツとあるが、ほとんどの部屋のカーテンが締まり、空室状態であることがわかる。GWの営業に一縷の望みを抱きながら4月中旬までとしていたディズニーの休園期間も、非常事態宣言の発令とともに5月中旬までの延期を決定した。2か月半の休園となるが、さらなる延長も懸念される

(手前が東京ベイ舞浜ホテルクラブリゾート、奥がヒルトン東京ベイ)

現預金などの手元流動資金が潤沢にあるディズニーは、1年休業が続いても持ちこたえられるだけの体力を持つようだが、先の新聞報道によれば、一般的なホテルや旅館などの宿泊施設はせいぜい2-3か月と言われている。コロナの影響が長引けば、資金繰りに窮し、閉鎖や廃業、倒産という危機に直面する

ここに立ち並ぶ大手のホテルチェーンはまだしも、日本各地の個人営業のようなホテルや旅館においては、すでに廃業を決めたところも出始めている。宿泊施設のみならず、観光バス会社やタクシー会社、航空会社、トラベル会社などもコロナに直撃されている

東京や神奈川では4月11日の土曜日から休業要請が始まり、緊急事態宣言の対象であるその他の自治体においても、同様な措置が取られ始めている。7都府県のみならず、感染者数が拡大している自治体においても、法的根拠を伴わないながらも、同様な要請が始まっている

学費収入のある大学などはまだしも、営業自粛や休業要請が出される前から外出自粛により客足が減少して深刻な影響を受けているのは、観光業のみならず飲食店や商店街など多岐にわたっている。現金収入が大幅に減少する中で、従業員への給与、買掛金、テナント料などの支払いに窮し、経営難に陥りつつある

(左がホテルオークラ東京ベイ、右がシェラトン・グランドトーキョーベイホテル)

このような状況を踏まえて、政府や自治体は事業主への支援金や協力金、資金繰りの支援策などを、また大幅な収入減となる世帯への現金給付の支給などを打ち出している。個々の施策についての是非をとやかく言うつもりはないが、現金給付一つをとっても様々な意見がある

共産党などは無条件に一人当たり10万円を支給すべきだと政府案を批判しているが、これが政府案に勝るとは到底思われない。私はすでに年金暮らしに入っており、決して生活に余裕があるわけではないが、コロナによって別に年金が減るわけでもないし、子供たちも社会人として独立しており、学費の支払いなどで家計に困るわけでもない。サラリーマンの多くは今のところ失業する人は少なく、残業手当はさておき月給が減らされるわけでもない。収入が減少しない人にまで給付金を出す必要などないし、ましてや高額所得者に出す必要などない。

年金生活者でも国民年金だけでは生活できずパート収入に頼っている方、サラリーマン家庭でも奥さんのパート収入が支えとなっている世帯などは、もちろん給付対象とすべきだ。その意味で政府案のように収入が一定以上減少する人で、一定水準の収入レベルを下回る場合に支給する方法は妥当と考える。本当に必要とする人に集中して手厚く支給する政府案に賛成である。ただし、給付を世帯とするか、収入が減少する個人ベースとするかについては意見が分かれる

現金給付の対象や金額については様々な意見があるだろうが、どこかで線を引くしかない。どれだけ時間をかけても完璧な制度などできないのだから、現在の状況では巧遅よりも拙速を重んじるべきだ。しかしながら、各国の同様な施策との比較において、日本の支援策の規模感、スピード感は見劣りする。政治家や官僚などの対応能力の差と言ってしまえばそれまでだが、都市封鎖(ロックダウン)や医療体制、経済対策に適時・適切な手を打つドイツなどと比較するとお粗末と言わざるを得ない

罰則を伴う都市封鎖(ロックダウン)を実施する欧米諸国と同じ土俵で比較することは公平ではないが、施策の法的な立て付けはさておき、コロナ感染の終息に向けた対策であることに彼我の変わりはなく、その意味において日本の対策の本腰度が感じられないとの批判は、野党やマスコミ、識者、海外などから発せられている。小池知事が率いる東京都も政府の危機感・スピード感に業を煮やしてか、独自の施策を打ち始めている

そんな中で北海道の鈴木知事は、いち早く自治体として緊急事態宣言を出してクラスターの拡大を抑えにかかった。感染状況に関する初期の慎重な情報公開に対する批判はあったものの、初動の判断とリーダーシップは鮮やかだったと思う。これにより第一波の感染拡大を抑え込んだ点は称賛されるべきだ。夕張での8年の奮闘が彼を大きくさせたのだろう。第二波襲来の兆しが見えるが、今後どのような手を打つのか注目したい。内地/蝦夷地の地勢を生かして、いっそのこと本土などとの海峡封鎖、入道制限など、思い切った施策を期待したいところだ

一方、政府とつばぜり合いをして健闘している小池都知事はと言えば、最近でこそ危機感とリーダーシップを発揮しているものの、それまでは目立った動きも発言もなく、後手に回った感は否めない。ましてや安倍首相に至っては、自らの政権の成果とうたうアベノミクスによる経済成長が傷つくのを恐れてか、インパクトのあるコロナ対策をタイムリーに打ち出しているとは言い難い。ますます激しさと緊急性を増すコロナとの戦いにおいて、一つ一つの対策の効果を見極めながら次の手を打つやり方は、戦力の逐次投入ではないかとの批判も多い

戦力の逐次投入に関して言えば、第二次大戦の太平洋戦線をケーススタディとした名著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(注1)でも失敗要因の一つとして取り上げられており、この本を引用して政府のコロナ対策を批判する論評も少なくない。ぜひ手に取っていただきたいが、決して読みやすい本ではないので、『「超」入門 失敗の本質: 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』(注2)を読まれるのも良いかと思う。こちらは読んだことがないが、書評を見る限り評判は悪くない

また、日露戦争を題材にした司馬遼太郎の名著『坂の上の雲』(注3)には、鉄砲を手に突撃を繰り返して多くの犠牲者を出した乃木希典による旅順攻撃も、戦力の逐次投入の失敗例として描かれており、同じ長州藩出身の児玉源太郎が艦船の砲台を外して陸揚げし、大砲により203高地を短期に陥落させた経緯が描かれている(真偽については諸説ある)

因みに『失敗の本質』は小池知事も座右の書の一つとして挙げている。失敗の本質では、上意下達の権威主義も要因の一つとしている。小池さんはこの部分を教訓にして政府とやり合っているのかもしれない。一方、コミュニケーション不足による方針・戦略の不徹底というのも、失敗の本質が指摘するところである。小池都知事をはじめ吉村大阪府知事など、首長の方々にはさらなる奮闘を期待しているが、ぜひとも縦や横の連携により、点ではなく面でコロナを抑え込んでほしい

さて、30数年前に読んだ『失敗の本質』をこの機に読み返してみようと思ったが、1月から始めた早めの終活で、この本も多くの本と一緒に処分してしまった。幸い、息子が文庫本を持っていることを思い出し、外出自粛が解けてこちらに来る時に持ってきてもらうよう頼んだ。当時は第二次大戦を知ろうとして読んだが、今は別の読み方ができると思うので、改めてじっくり読んだみたい

(注1)『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎共著、単行本はダイアモンド社より1984年に発刊、文庫本は中公文庫より1993年に再刊されている

(注2)『「超」入門 失敗の本質: 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』鈴木博毅著、ダイアモンド社より2012年に発刊

(注3)『坂の上の雲』司馬遼太郎著、文春文庫より1999年に発刊。全8巻。1968年4月から1972年8月にかけ『産経新聞』夕刊紙に連載された

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