映画『帰れない山』と『Aftersun』

レビュー

最近見た映画から標題の二本についての感想。

ともにヨーロッパの映画で、『帰れない山』がイタリア映画で、『アフターサン』がイギリス映画。どちらの映画も親子の関係がストーリーの一つの柱となっている。『帰れない山』は世間でありがちな父と息子の断絶を、『アフターサン』は父と娘で過ごす数日間のバカンス(おそらく二人で過ごす最後の時間)を描く。

『帰れない山』について

オフィシャルサイトの引用

「父の秘めた想いと遺志、親友との心地良い沈黙と魂の交流、そして自分の人生と居場所——」

都会育ちで繊細な少年ピエトロは、山を愛する両親と休暇を過ごしていた山麓の小さな村で、同い年で牛飼いをする、 野性味たっぷりのブルーノに出会う。まるで対照的な二人だったが、大自然の中を駆け回り、濃密な時間を過ごし、たちまち親交を深めてゆく。やがて思春期のピエトロは父親に反抗し、家族や山からも距離を置いてしまう。時は流れ、 父の悲報を受け、村に戻ったピエトロは、ブルーノと再会を果たし…

私の感想

我が子を思う父親の気持ちは、時として息子にとっては「押し付け」のように疎ましくも息苦しくもあり、なかなか伝わらない。疎遠なまま二度と語り合えない状態になって、初めて親の気持ちを知らされ気づく。洋の東西や時間を越えた普遍的ともいえる親子の構図だ。

この映画のもう一つの柱が、夏を過ごした山村の幼馴染みブルーノの貧困と挫折。ピエトロの父親とブルーノの交流は続き、ピエトロに代わって一緒に山に出かけ、親子のような関係が続く。父親の死後、ピエトロはブルーノから父親の気持ちを聞き、想いを知ることとなる。やがてピエトロがライターとして生きる道を見出す一方で、生まれ育った山村で牧場とチーズ作りのビジネスを再開したブルーノは、結局うまくいかず大きな借金を抱え一人雪山の中で命を絶つ。

随所に流れるモンテ・ローザのアルプスの山々の美しい雄大な映像が、厳しい中にも包容力のようなものを感じさせ、全体として重苦しいストーリーの空気を中和する一方で、人間の営みや悩みの小ささを際立たせる。

『Aftersun』について

オフィシャルサイトの引用

11歳の夏休み、思春期のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす31歳の父親・カラム(ポール・メスカル)とトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、ふたりは親密な時間をともにする。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィは、懐かしい映像のなかに大好きだった父との記憶を手繰り寄せ、当時は知らなかった彼の一面を見出してゆく……

私の感想

離婚して妻と子供と別れて暮らす夫が、ときどき子供に会って週末などを一緒に過ごす、欧米ではごく当たり前の光景。この映画では、父と娘が夏の数日間を一緒にバカンス先で過ごす。まだ胸のふくらみもなく、父親と一緒に寝泊まりできる年頃、難しい思春期になる少し手前の女の子だ。

手放しではしゃいで父親と旅行する年頃を過ぎ、父親との間にちょっと「隙間」ができ始める年頃だ。父親と一緒に旅行するのはこれが最後かなという感じの女の子。実際この時が父親と過ごす最後の時となる(という印象を最後のシーンから私は持った)。

ストーリーは平坦で、ちょっとした心のすれ違いはあるものの、事件や喧嘩やトラブルなどが起こるわけではなく、バカンスは終わっていく。撮影したビデオの断片を用いたり、ホテルの部屋の鏡やTVのディスプレイに反射した画像を用いたり、ビーチのパラセイル(丸いタイプではなく細長いタイプのパラセイル)の映像が、いつの間にかホテルのプールに浮かぶ葉っぱに変わって場面が移行するなど、カメラワークが独特だ。

バカンスを終えて空港で別れる際のとっても愛らしく幼さの残る11歳の少女の姿から、いきなり20年後の女性の姿、苦労や悩みのようなものをいろいろと抱える赤ちゃんがいるらしい母親の姿に場面が映り、これまでの映像が彼女の追憶であることが明らかになる。

二つの映画を見て

冒頭に書いたように、どちらもヨーロッパの映画で、とても静かに淡々と進行する。ハリウッド映画のような鮮明な映像や効果音などは一切なく、ハラハラドキドキ、笑いや涙のような感情の波を起こすようなこともなく、古い映画を見ているような錯覚を覚える作品だった。

映画のあちらこちらに「余白」や「間」といったようなものがあり、それが見る側を映画の中に引き込んでいく。明確な結末で終わるわけではなく、そのことが見終わった後にしっかりとした余韻を残し、頭の中でストーリーを振り返らせ、その先に思いを馳せさせることとなる。

それゆえか、二つの映画とも、最後のエンドロールが終わるまで、誰も席を立たなかった。決してこの時だけの偶然ではないだろう。久しぶりに、この手の映画を見たように思う。

さて次は、間もなく封切されるこてこてのハリウッド映画を見るつもりだ。

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