『生物と無生物のあいだ』福岡伸一著。講談社現代新書刊

レビュー

ずっと気になっていた本があった。タイトルがひっかっていた。何故かというと、リケジョの姪っ子が学生時代に研究していたのが、生物と無生物の区別についてだった。ボソッと語った研究テーマが妙に頭の隅に引っかかっていた。某通信会社の基礎研究所に就職したのだが、今もそのような研究をしているのかは知らない


長男の本棚、といっても半分くらいは私の本が並んでいるのだが、何気に読み返せそうな本はないかと物色していると、表題の本が目に留まった。長男と私は、お互いに読み終わった本を回すことが多く、本を共有し合っているような状態なのだが、この本についてはなぜか息子から手渡されることはなかった


息子がこの本を手にしたのも、姪っ子(息子にとって従妹)が語った研究内容に、恐らく息子も興味を覚えたからだろう。同じ理系といっても、宇宙航空工学が専門なので、全く畑違いで興味を持ったのかもしれない。かく言う私も工学部出身だが、生物とは無縁の学科で、姪っ子の研究テーマを聞いた時には「なんだそれ?」という感じだった


福岡先生といえば、生物学者であり青山学院大学 総合文化政策学部教授である。民放の土曜夕方の「ごはんジャパン」という番組で、食材のおいしさについて生化学的に解説するコメンテーターとして声の出演もしている。他にも幅広い番組で味のある解説をしたり、VISAの会員誌にも気の利いた軽妙な文章で連載をしているので、ご存じの方も多いかと思う


さて、前置きはこれくらいにして、本題の『生物と無生物のあいだ』について語ろう。アマゾンの読者書評は概ね好評な一方で、「タイトルと内容が違う」、「名が体を表していない」、「科学者の伝記?」など厳しいコメントもある。どちらかというと、私も後者の印象で、結局のところ生物と無生物の違いについてはぼやっとしたままだ。昨今、コロナだらけでいい加減うんざりなのだが、DNAやRNAやウィルスの理解には一助となるだろう


一方で、私が面白いと思ったのは、各章の見出しだ。以下にざっと列記してみる

プロローグ
ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
アンサング・ヒーロー
フォー・レター・ワード
シャルガフのパズル
サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
ダークサイド・オブ・DNA
チャンスは、準備された心に降り立つ
原子が秩序を生み出すとき
動的平衡とは何か
タンパク質のかすかな口づけ
内部の内部は外部である
細胞膜のダイナミズム
膜にかたちを与えるもの
数・タイミング・ノックアウト
時間という名の解けない折り紙
エピローグ

どうだろうか? 生物学の本というより、なんだか村上春樹か誰かの小説の見出しのような感じではないだろうか? 村上春樹の小説は、そのチャプターに出てくる文章のフレーズをそのまま見出しにしていることが多い。実際のところ、この本の見出しの多くも同じように本文から抽出されているし、各章の中の小見出しも同様だ


この見出しだけを生かして、生物学の解説書ではなく、冒険小説か推理小説かファンタジー小説か、まったく別の小説を紡ぎだせそうな気がする。もちろん、私はそのような才能を持ち合わせないのだが・・


本の中身については、生物と無生物の違いについて解説するというよりは、ワトソンとクリックによってDNAの二重らせん構造が解明される過程の裏話的なものから、著者の米国時代の研究活動の話が多く、あれっ?という印象を持つ方も少なくないと思うが、巧みな文章と相まって、生物の神秘の一端を垣間見るには十分に面白い本でもある


野暮なネタバレ的な紹介をするつもりはないので、ご興味のある方は、ぜひ手に取ってみていただければと思う

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