房総/大山千枚田、頼朝上陸地、気嵐

旅の記録

2022.12.08 22:07

この時期の房総半島は、養老渓谷などで関東一遅いと言われる紅葉が楽しめる一方で、半島南部ではスイセンや菜の花が咲き始め、あたかも秋と春が同居しているようだ。房総南部は冬があるんだかないんだかよく分からない変なところだ


千葉県民になって、はや四半世紀近くになる。私が住むトーキョー・ディズニーリゾート周辺は、千葉県を犬の形に見立てた「チーバくん」でいうと、口からぺろりと出した舌の部分だ。旧江戸川をはさんで東京に接しており、たまに雪もチラついたりして、同じ千葉県でもそれなりに冬を感じる


ここ数年、晩秋と早春が同居するようなこの時期に、房総半島へ出かけている。もっぱら海の幸を楽しむためなのだが、内房(東京湾)にも外房(太平洋)にも、海沿いには意外と温泉があり、宿で温泉とおいしい魚介料理を楽しめる


今回は十数年ぶりに、JR安房勝山駅近くの竜島(りゅうしま)海岸にあるこじんまりとした宿を再訪した。鋸山(のこぎりやま)や美人画の菱川師宣美術館などがある鋸南町(きょなんまち)で、南房総の入り口に位置している。チーバくんでいえば、お腹の下から膝のあたりだ

一昨年は紅葉を当て込んで養老渓谷を歩いたが、期待外れだった。今年は以前から訪れてみたかった大山千枚田に寄っていくことに。冒頭の写真が日本棚田百選にも選出されている棚田だ

大山千枚田は、実際には400枚弱の棚田なのだが、「東京から一番近い棚田」というのが売りだ

一つひとつの棚は狭く、機械を入れられず、手作業で行わなければならないところが多いように見える

効率化が難しく、高齢化も相まって、棚田は存続が危ぶまれる状況だ。多くの棚田がそうであるように、大山千枚田も都会の人に棚田を貸し出してコメ作りを体験してもらう「棚田のオーナー制度」などを導入している。昔ながらの方法で田植えや稲刈りなどを楽しめる

この時期は夕方から夜にかけて棚田のライトアップが行われている(10月下旬から1月上旬まで。夕暮れから3時間程度)。上の写真で、畦に等間隔で並んでいるのがLEDライトだ。4色が次々に変わっていくとか

薄暗くなってライトアップが始まるのを待っていると、宿のチェックインに間に合わないので、30分程散策して宿に向かった


ちょっと横道に逸れるが、1か月ほど前に「熊野古道 伊勢路」を7日間かけて歩いた。伊勢神宮から熊野大社を目指すのだが、熊野灘沿いの熊野市から内陸へ向かって進んで熊野本宮大社を目指すか、あるいはそのまま海沿いに進んで熊野速玉大社をゴールとするかで迷った


当初の計画では内陸へ進んで、「丸山千枚田」(棚田百選の一つ)に寄りながら熊野本宮大社をゴールとする予定だったが、伊勢神宮からの最初2日間の一般道歩きで足をやられ、とても丸山千枚田に寄り道しながら本宮大社を目指せる状況でなくなったので、海沿いを進んで速玉大社をゴールとした


丸山千枚田は1340枚の大規模な棚田で、ぜひとも見てみたかったので残念でならない。またの機会に訪れたいと思っている

上の写真は高知県の梼原(ゆすはら)にある「神在居(かんざいこ)の千枚田」の写真だ。「坂本竜馬 脱藩の道」を歩いたときに眺めた棚田だ。こちらは200枚弱の比較的こじんまりとした棚田だが、こちらも日本の棚田百選に選出された

上の写真も脱藩の道を歩いているときに通った集落の棚田だ。一見しただけで、相当な労力をかけて作られた棚田であることが分かるが、この集落も高齢化による過疎化が進んでいた。近くの他の地域では、すでに放置されて荒れた棚田跡も見た。オーナー制度など、知恵を絞って何とか棚田を残せないものだろうか・・・

宿のある鋸南町の竜島海岸までやってきた。ちょうど日が沈む夕暮れ時だった。この海岸、実はNHKの今年の大河とも縁が深い

大河ドラマにも出てきたが、伊豆で挙兵した頼朝が、石橋山の戦いで敗れて命からがら安房の国へと船で逃げた際に上陸した海岸なのだとか


吾妻鏡には、「安房国平北郡猟島に着いた」と記述されており、現在の鋸南町竜島とのことである。十数年前にここに来たときは、まったく気が付きもしなかった

宿にチェックインして部屋から夕景を撮影。宿から10mほど先が海岸だ。早速、温泉に浸かり、地酒とともに舟盛の刺身や、アワビの踊り焼き、伊勢エビなどに舌鼓を打った。マグロ以外は、すべて前の海で取れた魚とのこと。千葉県民冥利に尽きるひと時だった

朝方、目が覚めると満月が対岸の三浦半島に落ちていくところだった。海面に靄がかかっている

気嵐(けあらし)だ! 初めて見た。陸地側から海に向かって空気が流れていたのだが、海に達すると霧が発生し、沖へと広がっていた

気嵐は、この日のように陸と海との間に極端な温度差が生じた際に、海に流れ込んだ陸地の寒気が海面の水蒸気を冷やして霧に変える現象。晴れて風が弱い日に観測される。「蒸気霧」とも呼ばれる。海だけでなく、川や湖などでも見られる現象だ

東京湾に漂う気嵐。幻想的だ。北海道とか東北とか北陸など、寒いところでしか見られないのかと思っていたが、まさか内房の東京湾で見られるとは、何とラッキーな・・

富士山の前にも気嵐が徐々に流れてきた。寒いのも忘れて、しばし窓を開けたまま見入ってしまった

朝食後に部屋から撮影。前日のチェックイン後に夕景をバックに撮影した島だ

左の小島には波が穿った穴ができている

海岸沿いを散歩したら、きれいな海だった。東京湾もこの辺りまで来ると、随分と透明なんだなと、妙に感動してしまう。竜島海岸は遠浅ではなく、10mも沖へ進むと急に深くなっているので、小さい子供の海水浴場としてはちょっと使えないな

宿をチェックアウトして、旧保田小学校を改造した道の駅に寄った(カミさん孝行)。3千円分の地域クーポンで、お米と野菜を購入。私の分のクーポンは、昨晩の晩酌代に消えてしまった。この夜、早速、購入した菜の花をお浸しにして食べた


上の写真は購入した「まぼろしの地すべり米」。鋸南町は里山が海に迫っていて、斜面を棚田のようにしてコメ作りをしているのだが、時として豪雨などにより地すべりが発生して棚田が流失してしまうという


でも、悪いことばかりではなく、上方から崩れた土砂が棚田に流れ込むことで、ミネラルなどを多く含む肥えた土が入り、おいしいお米がとれるようになるのだとか。そのようにしてできたお米なので、「まぼろしの地すべり米」という名前がついているようだ。炊き立てで食べるのが楽しみだ


この地すべりとお米の関係についは、今年の3月にNHKのBSで放映された『新・映像詩 里山(1)新潟の棚田 豪雪と生きる』でも紹介されていた。つい先日、再放送をやっていて、記憶に残っていたので、この地すべり米のパッケージを見た瞬間に思い出し、購入した次第


また脱線するが、このNHKーBSの番組に出てきたのは、星峠の棚田だった。新潟県の十日町市にはいくつもの棚田があり、その中でも代表的かつ人気が一番高いのが、この「星峠の棚田」とのこと。豪雪に埋もれたシーンから始まり、春先にもみ殻をいぶした黒い灰を、まるで投網をするがごとく雪の上に撒いていく


「灰まき」と呼ばれる作業で、太陽の熱を集めて雪を溶かし春を呼び込むための作業だ。真っ白な雪面に次々と投げるように撒かれた灰が、まるで風車か花のような模様になっていくのだが、スローモーションの映像は鳥肌が立つほど美しかった


雪が融けた棚田には雪解け水が張られ、その水面に満天の星空が映る早回しの映像も、この世のものと思えないほど美しかった

やがて、苗が育ち刈り入れの頃になり、台風によって棚田の一部で実った穂がなぎ倒されてしまう。このような四季折々のシーンの中に、過去に繰り返し起きた地震による地すべり被害と、それを活かして作る米の話が出てきた

いつもの悪い癖でまた脱線してしまったが、道の駅での買い物を終えて、帰途についた。帰りはアクアラインを通って帰った

ちなみに浦安だと、同じ千葉県内を走り、内房を北上して千葉市を通って東関道を進んだ方が速そうに思えるけど(チーバくんで言えば、お腹から胸、首へと上がり顎を口方向に進む)、実はアクアラインで神奈川県、東京都を通過して浦安に向かった方が早い。距離は20キロ弱短く、高速道路代も800円くらい安く済む


上の写真は海ほたるの5F展望台からの眺め。中央の海の向こうに見える白い建造物は、「風の塔」だ。トンネル内の排気ガスを逃がすための施設。その奥は川崎市だ

川崎方面から右手方向には、都心のビル群が見える

さらに右方向には、私がいつもウォーキングしているコースにあるトーキョー・ディズニーリゾートのホテル群が見える。中央あたりに、左からヒルトン、トイストーリーホテル、オークラ、シェラトンが立ち並ぶ

川崎の左手方向には横浜のビル群と、その左に富士山が見える。今日はいい眺めだ

こちらは、同じ日の夕刻。自宅に帰って、午後3時頃からいつものウォーキングに出かけた。TDRのホテル群やディズニーシーの外側を東京湾沿いに歩くコース

浦安側からアクアラインの海上部分と海ほたる(右端の船の左)を撮影した写真。お昼前に海ほたるからTDRのホテル群を眺めた逆バージョン

真ん中のヨットの帆のように見えるのが「風の塔」だ

ウォーキング終盤。東京湾から旧江戸川の河口付近に戻ってきた。前日、この日と良い天気に恵まれた。また来年もおいしい魚介料理を食べに南房総へ行きたいな

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